ウイルソン病友の会(JAWD)」とは 

 JAWD=Japan Association of Wilson's Disease

 

「ウイルソン病友の会(患者及び親の会)」は、平成7年(1995)にわが国では初めて設立され、多くの皆様に支えられながら確かな第一歩をスタートいたしました。
 ウイルソン病は、脳・肝・腎・眼など全身諸臓器が冒され、治療せず放置すれば短い期間で荒廃したり、不幸な死を迎えることになります。D−ペニシラミン(商品名:メタルカプターゼ)や塩酸トリエンチン( 商品名:メタラ イト)などの銅キレート薬服用、又は酢酸亜鉛水和物(商品名:ノベルジンカプセル)の銅吸収阻害薬服用、低銅食療法が正しく、規則的に実施されれば生涯にわたって通常の生活をenjoyすることができます。治療や発症予防が可能であっても、診断が難しく、確定診断や治療開始が遅れたりすることも多いため、さまざまな障害や問題を持つ患児(者)も多いのが現状です。
 ウイルソン病は、日本において出生3〜4万人に1人と推定され、恐らく全国で1500名以上の罹患者がおられると思います。
 「ウイルソン病友の会」は、患者やその家族、専門家や他の患者の会などと力を合わせて、患者と家族をめぐる医療・教育・福祉などのトータルな充実した環境づくりをめざします。
 どうぞ、患者・家族はもとより、ご支援いただける方々のご入会をお願い申しあげます。 

 

   

 

  会の目的

 

 

 . 会員(家族を含めた)相互の連絡、励まし、協力、相談

 

 病気に対する理解を深める。特に、治療の生涯継続性の実行、励行

 

 専門医師との気軽な相談可能な状況を作る

 

 4. 行政サイドへの働きかけ

 

 5. 難病のこども支援ネットワークとの連携

 

 会の活動

     

・会員向け会報を発行(年2回、3月と9月)しています。

・全国大会(5月)、関西支部会(秋)、北海道支部会(年1回)、九州地区大会(随時)、を開催しています。

・厚生労働省に@公費負担(18歳以上についても)の難病指定

          A公費によるスクリーニングの実施

          を要望しています。

 

 

       顧問医師

     

         青木 継稔先生(東邦大学名誉学長・名誉教授)

 

          有馬 正高先生(東京都立東大和療育センター)

 

          玉井  浩先生(大阪医科大学付属病院小児科教授)

 

 

 

 

 

20回関西支部会の開催

 

 平成291126日(日曜日)関西支部会を開催いたします。

下記のように計画しておりますので、多くの方々のご参加をお待ちしております。

関西地区以外の方々もぜひご参加下さい。

 

                       記

 

☆ 日 時   平成291126日(日曜日)午後1時〜午後4時

              (受付 午後0時30分〜午後1時)

☆ 場 所   大阪医科大学 看護学部 3階 

           地図を参照してください。矢印の場所です

(昨年とは異なりますのでご注意下さい。)

 

☆ 内 容   1、専門医からのお話

        2、質疑応答

       

 

 

参加される方は当日会場に直接いらしてください。

友の会会員以外の方も参加できます。

 

質問等は事務局まで、お願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

ウイルソン病が難病指定に選定される。

  医療費助成7月から。

 

医療費助成の対象となる指定難病にウイルソン病が選定されました。

平成28年7月から助成が開始されます。

手続きは最寄りの保健所にお尋ねください。

 

 

 

怠薬にて命を失うことがある

― 怠薬は気のゆるみから ―

 

ウィルソン病友の会顧問医師

日本ウィルソン病研究会代表幹事

東邦大学名誉学長・名誉教授

青 木 継 稔

 

ウィルソン病友の会会員の皆様、今日は!毎日お元気にお過ごしのことと存じます。いつも申し上げることですが、治療薬を規則的に、正しく服用されていらっしゃいますか。絶対に怠薬をしないで下さいね。服薬することは面倒なことですが、毎日食事をするように習慣づけをすることが大切です。

 

 

怠薬して亡くなられた30歳男性のメッセージ

 

 私の患者様のひとりであって、ご家族様とともに、ウィルソン病友の会の会員であった男性の方が怠薬をされて昨年お亡くなりになってしまいました。本当に残念でなりません。彼は中学生のとき、肝硬変・肝型のウィルソン病と診断され、著明な脾腫と血小板減少があり、私のところに紹介されて参りました。銅キレート薬の服用と銅制限食の実施により改善がありました。高校・大学を卒業されて、IT関連企業に就職されお元気に過ごされていました。私自身、大学定年となりその後は私が診療継続できませんでしたので、清水教一先生が診てくれていて順調に過ごされていたと思います。30歳を過ぎる頃より怠薬をされたようです。肝不全にて、来院され、緊急肝移植(母親の肝)となりましたが、拒絶反応などにより残念ながら亡くなられました。亡くなられる前に私のところにお電話があり、『怠薬したことにより、このようになってしまいました。ウィルソン病の皆様に怠薬しないように伝えて欲しい』との内容でした。思春期から青春期にかけて、肝硬変・巨大な脾腫、血小板数の著明な減少にて大変にご苦労され、乗り越えられたにもかかわらずに、ある年月を経て魔がさしたのでしょうか、親元を離れてひとり暮らしをされたためなのでしょうか。怠薬をされるようになり、怠薬しても数年間は元気に過ごされていて、自分自身が体調不良に気づかれたときは、肝不全が著しく進行して、内科的治療では不可能な状態に陥り、肝移植しか道がなかったのです。肝移植が成功すれば命は助かったと思いますが、拒絶反応などの出現があり本当に残念で仕方ありません。

 

怠薬にて症状悪化・寿命を縮める方が多く後を絶ちません

 

 怠薬されて症状を悪化されて、寿命を縮める方が後を絶ちません。自分自身は例外であり怠薬しても大丈夫と変な自信、過信されていらっしゃる方が多いのです。例外はありません。怠薬すれば、いつの日にか症状が悪化します。数年自覚症状がなく、治療薬を服用しなくても大丈夫なので、自分は本当にウィルソン病なのか、自分は大丈夫なんだと思い込んでしまうのでしょうか。でも、怠薬すれば、必ずいつか症状が出てきます。気付いた時は、手遅れになってしまっていることが圧倒的に多いのです。治療不可能な難病・遺伝病が圧倒的に多いのに、難病指定されているにもかかわらず、治療薬があり、怠薬しなければ自己の生まれながらの寿命を全うできる不幸中の幸運を自ら放棄してしまうほど愚かなことはありません。『絶対に怠薬しないでください』。

 

 

治療薬正しく服用しないで症状を悪化させてしまうことがある

 

 もう一つ気をつけないといけないことがあります。ウィルソン病治療薬の服用時間を間違えないことです。銅キレート薬(メタルカプターゼ、メタライト)を食後に服用されていらっしゃることが比較的多いのです。銅キレート薬は食後に服用すると、食物中の銅や重金属とキレート結合してしまい、身体の中に吸収されなくなります。食後3時間以上、空腹時に服用することにより、腸管からキレート薬が吸収され、体内に蓄積している銅とキレート結合して尿から体外に除去され治療効果が発現するのです。治療医や薬剤師も知らない人がいますので気をつけることです。キレート薬を服用していても症状の改善がなく、症状の悪化する方に薬の服用の仕方を改めてお聞きしてみると、薬は食後に服用しているとの話が聞かれることも案外多いことに驚きます。ウィルソン病治療薬を正しく服用することが大切なのは、以上の理由によります。銅キレート薬は、空腹時、食後3時間以降食前1時間前に服用してください。ノベルジン(亜鉛薬)は、食後2時間以降、食前1時間前に服用してください。また、銅キレート薬とノベルジンは一緒に服用しないことです。その理由は、ノベルジンの亜鉛が銅キレート薬とキレート結合してしまい、両方が効果を失ってしまいます。よく覚えておいてください。

 

 

 

 

怠薬が始まる時期に要注意

 

 私の経験や患者様自身の体験談から、怠薬が始まる時期がいくつかあります。怠薬する理由は明確ではありませんが、そのほとんどは、ウィルソン病である自己否定、受容が十分になされていない、自覚症状がなかったり治療により回復できたこと、などが挙げられると思います。以下、私の気付いたり経験したり体験談からの怠薬時期を箇条書きにします。

 

1)思春期から青春期

この時期は、ヒトの成熟過程において不安定となる時です。身体的にも二次性徴が始まり著しく成長します。心理的には、自立の時期であり、家庭的には反抗期になります。自分がウィルソン病であることを受け容れられなくなったり、診断されたことは間違いではないかと疑問を持ったり、何故他の人々と自分だけが違って薬を服用したり、食事制限をしなければならないかを疑問に思ったりすることが当然あります。今まで何気なく服用していた治療薬を服用せずに捨ててしまったり、机の引き出しの奥にしまい込んだりします。親からの押しきせに反抗したりグレてしまったりした人も多いと思います。怠薬を家族が早く発見することが必要です。春休み、夏休み、冬休みなど最低3回以上は定期的に病院に行き、定期検査や服薬指導を必ず受けることです。また、ウィルソン病の会に連れ出したりして、自覚させたり受容させたりすることも大切ではないでしょうか。

 

2)親もとから離れてひとり暮らしの始まる時

大学に入学したり、就職して親元を離れて独り暮らしを始める頃に、怠薬する人が多くなります。新しい生活の場所へ移動するために、主治医・担当医が代わり新しい病院に通院しなければなりません。勉強や学生生活が多忙となったり、就職して休みが取れなかったりして、病院に行くことが面倒であったり、病院に行っても時間がかかったりして、病院へ行くことが遠のいたりすることが考えられます。成人に達したとしても、ウィルソン病に対する本当の理解や受容の甘さ、怠薬の恐ろしさの自覚の欠如が大きいと思います。また、数年怠薬しても全く自覚症状のないことも、ウィルソン病に対する認識が薄らぎます。ご家族、病院側・担当医側の受診歴などのチェック、本人への勧告・連絡が防止につながるかもしれません。

 

 

 

3)就職した時など

親もとを離れなくとも就職した後は、仕事のこと、職場環境のことなどから休みをとれなくなり、病院に行ったりするのがなかなか困難となったりします。とくに、自分がウィルソン病であることを知られたくなかったりして薬を服用しなくなったりすることもあり得ると思います。薬さえ服用していけば、他の人と全く同じに仕事もできて、健康体でいられることをもっと理解すべきです。ご家族のチェック、病院側のチェックも大切です。

 

4)結婚した時から

結婚を契機に怠薬する人が以外に多いことに驚ろかされます。ご夫婦でウィルソン病のことが共有でき、相互理解ができていれば大丈夫だと思いますが、それでも当事者でない限りは気付かないこともあります。ウィルソン病について深く理解していないで結婚した場合、相手の方の理解が得られないこともあるかもしれません。結婚したからこそ、余計にウィルソン病であることを理解して怠薬しないようにしなければなりません。

 

5)経済的理由から怠薬が始まる

就職することが困難であったり、仕事を止めてしまったことなど、あるいは親元のご不幸などにより経済的に困窮してしまったりして、病院に通うことが困難となったりして、怠薬したり、治療薬服用を半分にしたりしなければならなくなる方がいらっしゃいます。通院している病院に相談して、十分に治療・診療が受けられるようにすることが必要です。相談すれば、道は拓けるものと思いますので、遠慮しないで各所に相談を持ちかけることです。

 

 

悩み事、困ったことへの相談

 

ウィルソン病に関する色々な悩み事、困っていること、色々な問題などは、気軽に相談されることをお勧めします。

 

1)主治医・担当医:医師の性格にも色々とありますので、相談しにくい医師もいらっしゃるかも知れませんが、先ずは主治医・担当医に相談されることが一番と思います。病院のケースワーカーや医療支援の方々も相談に乗ってくれるかも知れません。

 

 

1)ウィルソン病友の会への相談・問合せ

患者様やそのご家族間の相互相談も友の会事業の一つです。また、世話人の方や事務局の方々も相談・問い合わせに応じてくれています。医療面のことであれば、私どもの方に回して頂くこともあります。残念なことですが、個人情報保護法により守秘義務の問題もあり、会員相互の名簿・住所・電話などの公表がなされていません。事務局や本部に連絡をとれば、相互連絡もとれるかも知れません。

 

2)私個人への相談も受付けています

何かあれば、相談門戸を開いておりますので、気軽にご連絡下さい。お手紙でもFAXでも、携帯でも構いません。下記に連絡先を記載しておきます。

 

〒210−0848

川崎市川崎区京町2−10−1

      TelFax 044−333−6250

        携帯電話番号 090−6790−7002

(ショートメールも可能です)

       青 木 継 稔

 

 

 

むすび

 

怠薬により不幸にも亡くなられた30歳台の男性からのお電話があり、『怠薬して肝不全になってしまいました。ウィルソン病友の会の皆様に怠薬しないように伝えて欲しい』とのメッセージをいただき、本稿において皆様にお伝えします。

いつも怠薬しないようにと、申し上げ続けております。誠に恐縮ですがお許しください。

 

                            2017(平成29)7月記

 

 

 

 

 

ウィルソン病患者さんの妊娠・出産・育児について(全国大会での講演)

                   

                                            帝京平成大学健康栄養学科

                                            帝京大学小児科          

                                            児玉 浩子

 

         〔事務局君島が講演内容をまとめました〕

 

 ウイルソン病は、常染色体劣性遺伝の病気と言われています。常染色体上にある遺伝子は、ペアになっており、父親から1つ、母親から1つ受け継いでいます。患者は両親から受け継いだ2つの遺伝子が両方ともウイルソン病の遺伝子となっています。その場合にウイルソン病の患者として発症します。次に保因者の場合、2つの内、1つだけウイルソン病の遺伝子で、もう1つは正常です。保因者は、全く症状はありません。肝機能も正常、治療をしなくても寿命を全うすることができます。もちろん薬を服用する必要もありません。  

ご両親のどちらもウイルソン病の遺伝子を持っている保因者である場合、その子供が、全くウイルソン病の遺伝子を持たない確率は4分の1です。保因者の確率は2分の1です。患者の確率は4分の1です。その確率は毎回妊娠するたびに4分の1ですので、生まれる子供が全員ウイルソン病の可能性もありますし、全員正常の可能性もあります。また、保因者、患者、正常が混ざっている可能性もあります。

次にウイルソン病の患者が結婚したらどうなのか。心配されると思います。ウイルソン病の患者が親となった場合、ほとんどの場合、相手は保因者でも患者でもないと思います。その場合は、子供は全員保因者で患者は生まれません。

 

保因者は、日本では120人に1人と言われています。ですから患者が保因者と結婚する確率は120分の1と言えます。ウイルソン病患者のほとんどの場合、相手が保因者でも患者でもないので病気を発症することはありませんが、保因者であることは覚えておいてください。ただし稀に例外として、ウイルソン病患者が保因者と結婚した場合、2分の1の確率で患者か保因者が生まれますので、子供が生まれたら早めに検査を受けた方が良いと思います。例外2として両親がウイルソン病の場合、その場合は注意が必要です。生まれる子供はおそらく全員患者として生まれると思います。その場合も早めの検査で症状が出る前に薬を飲めば全く心配ないですので、知っておくことが必要です。

 

 

女性のウイルソン病の患者について、ウイルソン病の患者が結婚、妊娠、出産は可能かと言うことですが、可能です。ただし、治療薬は妊娠中も服用する必要があります。産婦人科医の中にはウイルソン病治療薬の服用が胎児に悪影響を与えるのではと思う方もいます。妊娠したからと言って薬を止めてはいけません。産婦人科医に薬を止めるべきと言われたら、ウイルソン病の主治医からきちっと説明していただく必要があると思います。薬の説明書にはきちっと書いてあります。ノベルジンは妊娠前と同量か半分の内服。キレート剤については、妊娠後期には、妊娠前の5070%に減量することが非常に大事です。これは、胎児の発育に銅が使われるため、妊娠中に同量のキレート剤を服用すると胎児が銅欠乏になる可能性があるからです。それを防止するために薬を減らす必要があります。そのようにして妊娠出産をしますとこれは全く子供には影響を与えず元気なお子さんを生むことができます。妊娠中に主治医の指示通りに薬を続けていれば何も心配することはありません。全く普通に出産が可能です。奇形が起こりやすいとか、未熟児になりやすいとかは全くありません。

続いて母乳育児が可能かですが、平成17年の調査で、育児の際、生後56か月で3分の1が母乳、3分の1が混合栄養、3分の1が粉ミルクだけとの結果でした。平成22年度の調査では、56%が母乳となっており、母乳育児が非常に増えてきています。ウイルソン病患者の母乳育児は可能です。ウイルソン病患者さん13人から母乳をいただいて分析しました。全員ウイルソン病のコントロールは良好で、肝機能は基準範囲内です。ぺニシラミン服用6名。トリエンチン4名。亜鉛が4名のお母さん方に協力していただきました。(1名は母乳育児中に亜鉛製剤からトリエンチンに変更。)出産14日以降の母乳を分析しました。ウイルソン病患者でないお母さん25名から同じく14日以降の母乳をいただきました。銅及び亜鉛の濃度は次表の通りです。

 

いずれの薬でも、母乳中の銅、亜鉛濃度は、基準範囲内でありました。最後にまとめです。

○ウイルソン病は遺伝します。

 ・ウイルソン病患者の両親は保因者です。

 ・ウイルソン病患者が親になった場合の殆どは、 子どもは全員保因者ですが、患者さんは生まれません。

 

○ウイルソン病患者は妊娠・出産は可能で、

  子供も全く問題ありません。

  ただし、服薬は続ける必要があります。

 ・亜鉛製剤は、妊娠前の同量、または75mg/日に減量する。

 ・キレート薬は、妊娠後期には、5075%に減量する。

 

○母乳育児も可能です。

 ・いずれの薬でも、母乳中の銅、亜鉛濃度は、基準範囲です。

安心して、妊娠・出産・母乳育児ができます。

 

 

 

 

 

 

障害児者(弱者)殺傷事件で思うこと

ウィルソン病患児者は障害児者にあらず

 

ウィルソン病友の会顧問医師

東邦大学名誉学長・名誉教授

ウィルソン病研究会代表幹事

青木 継稔

 

 

 ウィルソン病友の会の皆様、お元気ですか。『お薬』を忘れず、正しく服用されていらっしゃいますか。ウィルソン病治療薬を忘れず毎日服用している方は、持って生まれた天寿を全うできることでしょう。そして、生命を輝かせて生きて行かれることでしょう。

 怠薬することは、早期に死亡したり、重篤な後遺症を残したり、つらく苦しい肝硬変や脳神経症状・精神症状やその他重い障害が顕症したりします。数カ月あるいは数年の怠薬により必ず重篤な症状が、突然にあるいは徐々にやって来ます。少しの間怠薬しても何ともなく病気にもならないので、「自分だけは大丈夫だ!」と思い込んでしまう人がとても多いのです。この変な思い込み、過信が危険信号に他なりません。

 私ども医師は、ウィルソン病患児・者を診療するとき、@初めての診断と治療することもありますが、その他多くはA怠薬により症状の出現や悪化した症例の診療なのです。怠薬の恐ろしさをあれほど説明し続けてきたにも拘らず、残念で仕方ありません。

 どうぞ怠薬をしないで下さい。

 

 

 

今夏深夜の障害者(弱者)殺傷事件

 

 今年の夏に、神奈川県相模原市の障害者入所施設にひとりの元施設職員であった26歳青年の障害者殺傷事件は、つらく悲しい大きな出来事でした。19名の死亡者と20数名の重症者という前代未聞の大事件となりました。どうしてこんな人間としてあるまじき事件が起きてしまったのか、という疑問が色々と論じられています。勿論、犯人の青年の麻薬常習による精神障害、独自の間違った考え方への進行(弱者抹殺の社会的正当化)が原因の一つと考えられています。この青年の家庭環境は、父親が教員であり、自分も教員になる夢があったようですが教員にはなれなかったようですが、しっかりとした教育環境の整った家庭であったようです。障害者施設の職員として入所した数年間は、模範的な障害者に優しい世話好きでリーダーシップを発揮していたとのことです。この青年は、麻薬常習者の幻覚あるいはある過激な思想に感化(例えば彼の言の中に、“ヒットラーが自分の中に降りてきた”とも話していたという事実)があったものと推定されます。考え方がそうなってしまっても行動に移すということは信じられないことです(考えても行動しない人が多い)。

 

 私自身は、現在、東京都下にある重症心身障害児・者施設を有する社会福祉法人の後援会長を引き受けています。この施設には、私が45年以上前から診てきた難病の男性がずっとお世話になっています。この男性は中等度の知的障害と脳性麻痺(不随意運動あり)を合併した方です。入院・入所児者のほとんど知的にも運動面でも重複した障害を持った児者です。重い人は人工呼吸器装着、胃瘻による栄養補給を受けている方も多いのです。入所児者、入院患児者は、みんな強く生きていこうという気持ちが、表情や動作に満ちあふれ、皆様は生命が光り輝いているのです。医師・看護師や各種医療専門職の方々、その他の職員も、この障害を持つ児・者に対して「重い人たちの命の輝き・懸命に生きようとする姿」に感動し、寄り添ったお世話をして下さっています。この医師・看護師・他の医療従事者・職員の姿も光々して感動的です。勿論、ご家族の方々の献身的な御姿にも頭が下がります。

 

 このような障害者殺傷事件が起きてしまう背景を考えてみましょう。この日本の悲しく重いニュースは全世界にも報道され、とくに福祉の進んでいる北欧を中心とする西欧社会に驚きのニュースとして捉えられました。北欧社会では信じられない出来事だったようです。北欧の病院や福祉施設を見学したときに、障害児者が円滑に社会の中に溶け込んでいて、社会の人々と障害児者の壁がなく自然に交われているのです。ハンディキャップのある児者に対し、子どもから老人に至るまで敬意を持って交流し、手を差し伸べているのが自然に行われているのです。階段に差しかかった車椅子の障害児者を見かけると、45人の若者がすぐに集まってきて声をかけて皆で階段を担ぎ上げて上へ移動させ、声をかけて何気なく去って行くのです。20数年前に、初めてこの光景を見た私は感動に胸がキューンとなったことを、日本に来ていつも思い出します。そんな光景を日本では見たことがないからです。

 

 

 

 私は、日本において障害児者が社会の中に受容されていない、社会と交わる機会が少ないと思います。幼稚園や学校における障害児との交流の場が極めて少なく、小さい頃から社会にも障害児者がいることを日常に知り交流をさせる必要があるのです。授業や学習のレベルは障害児者のそれぞれのレベルにて、個別あるいは少人数教育はすべきですが、色々な場面で通常児と障害児とは交流の場を積極的に設けることが必要です。障害児者を特別視させない、自分達の仲間であり、地域社会や学校の一員であることを体得していくことが「障害児者と社会と自然に交わる」社会の形成に繋がると思っています。さらに、悪いことに、ある母親は“障害のある子と仲良くなってはいけません。近よらないこと。”と自分の子に言っている姿を何回も遭遇しています。こういう親が日本の社会では多数派ではないでしょうか。こういう考えの温床が弱者迫害、弱者排除の思想に繋がってゆくのではないでしょうか。障害児を持ってしまった親の気持ちを思いやることはできないのでしょうか。「自分さえ良ければよい。自分の子さえ良ければよい。」思想が日本には根づいていると思うのです。こういう考え方の改革を保育園や幼稚園、そして学校教育の中に定着していかなければならないと考えます。

 滋賀県のびわこ学園を設立した糸賀一雄博士(日本障害者福祉の先駆者)は、「重い障害児者たちの命の輝き。光り輝く命の存在に対し、我々は“命を守る”義務がある」とし、さらに「重い障害児者にあっても地域交流を盛んにすべきである。地域とともに生きる。」と論じられています。

 『地域とともに生きることのできる障害児者』という社会の実現は、このような悲しい障害者殺傷事件は決して発生しないでしょう。

 

 

 

 ウィルソン病患児者は障害児者か

 ウィルソン病患児者は、障害児者ではありません。治療薬を正しく規則的に服薬していらっしゃり、怠薬しないウィルソン病患児者は、健常人と同じ健康体と思って差し支えありません。日常生活、運動、学校教育、就職、結婚、集団生活など、全く普通に行い得るのです。したがって、ウィルソン病患児者は、全く障害児者ではありませんのでご安心下さい。ただし、国の基準ではウィルソン病は難病指定されていることはご承知下さい。

 また、ウィルソン病患者さんは、発見が遅れて後遺症が残ったり、怠薬をして精神障害や神経症状が固定化すると、重ければ歩行不能、寝たきり、言語障害、知的障害などが出現します。そうなれば、障害者の仲間入りは免れません。したがって、ウィルソン病患児者の中には、障害児者になったりする方もいらっしゃることはご存知の通りです。怠薬すれば障害児者になってしまう確率が高くなってしまうことを肝に銘じて下さい。

 

 

 

                おわりに

 

 昔、福澤諭吉は「天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず」と名著を発表しました。私は子どもの頃、テレビも民放もない頃に、夜9時になるとラジオからこの言葉がいつも流れてきて、母親から「寝る時間ですよ」と言われて床についた日々を思い出しました。この福澤諭吉の言葉の意味が何を意味するのか、どういうことを言っているのか全く理解できずにいました。考えてもよく分かりませんでした。天は(神と言ってもよいでしょう)、人間には全く上下というものはなく、皆平等であるように人間を創造したのだと漠然と思うようになりました。私は小児科医になってから考えるに、天(神)は人間を上下なく、差別なく、平等に創造したのではなく、何故このように差別を持って不平等に創造したのかと激しく疑問を抱き続けました。しかし、医師の道を何年も歩んできて、この「天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず」の深い意味に気づき始めています。これは、きっと、人の尊厳、生命の尊厳には、弱者も強者もなく皆平等であることに気づかされたのです。強者が弱者の生命を奪うことは人間としてはあってはならないことです。誰もがonly oneの尊い生命を輝かせているのです。身体的に、精神的に障害がある児者を弱者と呼んでも、その生命は強いものです。たとえ弱者といわれても、その光り輝いている生命を大切に守ってあげることは人間として大切な義務であり、理性ある愛情だと思います。

 

 

 

                    平成282016)年83

 

 

 

 

 

 

 

ウィルソン病の遺伝的問題

わが子は大丈夫か

 

ウィルソン病友の会顧問医師

東邦大学名誉学長・名誉教授

青木 継稔

 

 

ウィルソン病友の会の皆様、お元気でいらっしゃいますか。お薬の“のみ忘れ”はありませんか。怠薬は、寿命を縮め、苦しく辛い困難な後遺症ある不自由な身体になってしまいますので、絶対にしないで下さい。忘れたときは、すぐに服薬して下さい。

 さて、今回はよく質問される事柄のひとつであるウィルソン病の遺伝的な問題について解説したいと思います。

 

T.ウィルソン病は遺伝病である

 

 多くの方がご存知のように、『ウィルソン病は遺伝病』であり、残念ながら間違いありません。ヒトの多くの病気は、遺伝病であったり、遺伝が関与したりします。遺伝病は、何千・何万とあり、発病が生まれてすぐだったり、人生の後半に出たり色々あります。ウィルソン病は、1012歳頃に発病のピークがありますが、幼児期から40代・50代だったり非常に幅があります。ほとんどが、思春期ころまでに発病すると考えられ、一部が青春期以降に発病することが報告されています。

 

1.ヒトの染色体とウィルソン病遺伝子

 正常のヒトの染色体は、22対の常染色体と1対の性染色体(男性:XY、女性:XX)の46本で構成されています。それぞれ対称的に父親由来と母親由来の染色体で構成されていますので、46本中23本が父親由来、もう23本が母親由来です。染色体上には、何千という遺伝子が順序よく並んでコードされています。ウィルソン病は、13番目の染色体の長腕14.3の位置(染色体上の地図が国際的に決められていて、住所の何丁目何番地というように番地が決められている。また、1つの染色体は中心点を境に短腕と長腕がある)に座位しています。

 ウィルソン病遺伝子は、PtypeATPase銅輸送膜蛋白《ATP7Bと命名された》です。生体内の遺伝子は、肝・脳・腎・心・筋肉・胎盤などに発現していて、十二指腸や小腸には発現していません(腸管から銅吸収が障害され生体内銅欠乏を生ずるMenkes・メンケス病と全く異なり、メンケス病では十二指腸や小腸にメンケス病遺伝子が発現している。メンケス病遺伝子もPtypeATPase銅輸送膜蛋白《ATP7Aと命名》であり、ウィルソン病遺伝子と極めて類似しているが、遺伝子はX染色体長腕13.3に座位している)。

 

2.ウィルソン病とウィルソン病遺伝子異常

 ウィルソン病の方は、このウィルソン病遺伝子に異常があるために、ウィルソン病遺伝子から作られる上記銅輸送膜蛋白《ATP7B》の異常なものが作られ、正常の銅膜輸送が出来なくなってしまうのです。働かないか、働きの悪い銅輸送膜蛋白により、細胞内に銅が貯まってしまうのです。とくに、肝細胞から胆汁中へ銅を排泄できずに、肝細胞内にどんどん銅が蓄積し、肝障害、肝不全、肝硬変と進行してしまうのです。普通の場合は、ウィルソン病遺伝子が正常であれば、生体内に利用され役割を終えた銅は肝臓から胆汁中に排泄され糞便中に出されます(銅は、正常者では腎から排泄されない)。

 

3.ウィルソン病の病気発現

 ウィルソン病患児(者)は、ATP7Bの異常により、肝細胞から胆汁中への銅排泄障害が生じて、肝細胞内に銅が過剰蓄積し、肝細胞の働きが破壊されてしまいます。また、肝細胞内でのセルロプラスミン合成も同時に阻されますので、ほとんど患児(者)では血中セルロプラスミン値が低値となります。肝細胞に蓄積した銅は、銅を補足してメタロチオネイン銅となり蓄積が可能ですが、

メタロチオネイン銅が飽和状態となると、銅がイオン化して細胞障を生じ、肝炎・肝壊死などを生じます。急激かつ大量の肝細胞壊死により劇症肝炎や肝不全となり、短期間で急激に発症して死の危険を迎えます。少量から中等度の肝細胞壊死が繰り返され、急性肝炎様、一過性のASTALTの上昇、さらに慢性肝炎から肝硬変が形成されていきます。肝細胞壊死により多量の銅が血中に放出され、脳・腎・眼など各臓器にも蓄積していきます。神経症状や精神症状、Kayser-Fleischer角膜輪、腎障害なども発症してくることになるのです。

 

4.ウィルソン病になった人の遺伝子は?

 ウィルソン病患児(者)は、13番染色体1対(2本:父親由来と母親由来の両方)ともに長腕14.3坐位のウィルソン病遺伝子の異常を持っています。すなわち、父親由来と母親由来の両方の遺伝子(ウィルソン病遺伝子)がいずれも異常なのです。このように、1対の遺伝子がいずれも異常なときに、病気を発現するのです。この場合、父親と母親のウィルソン病遺伝子は、1対のうち1本が正常であり、もう1本が異常なので保因者ということになり、病気になりません。

 両親のウィルソン病遺伝子に全く異常がなくっても、その子のウィルソン病遺伝子1対に異常を生じて、ウィルソン病になってしまうこともあり、これを突然変異といいますが、このようなことは稀です。

 

 

U.ウィルソン病の人とその子について

 

 ウィルソン病患者は、治療薬を服用することにより通常の人と同じように健康体として全く普通に生活できるようになりました。したがって、自由に結婚することも可能となり、子どもさんも持つことも普通になっています。私の知る限り、日本人のウィルソン病患者女性から100名以上の子どもさんが生まれています。数名の子どもさんを除いては全く正常の方ばかりです。数名のお子さんには、ウィルソン病の方はいらっしゃいません。その数名のお子さんは原因不明の病気を持つ方であり、ウィルソン病の方でなくても生ずる病気になった方ですがほとんど日常生活にも差支えない病気です。

 それでは、ウィルソン病の方から生まれる子どもさんには、どんな遺伝子異常をもつことになるのでしょうか。よく心配されて来院され、相談されたり検査したりします。

 

1.ウィルソン病患者と健常者との結婚

 ウィルソン病患者は、上述のごとく1対の13番染色体長腕14.3に座位するウィルソン病遺伝子がいずれも異常な遺伝子を持っています。結婚相手の健常者は、12本のウィルソン病遺伝子がすべて正常です。したがって、生まれてくるお子さんのすべてが、1本は異常なウィルソン病遺伝子をもち、もう1本は正常なものを持つ、すなわち保因者ということになります。

 

2.ウィルソン病患者と保因者との結婚

 この場合は、ウィルソン病患者のお子さんが50%、保因者のお子さんが50%となります。結婚相手が保因者であるかどうかは不明です。また、結婚相手にウィルソン病の保因者であることの検査をすることは極めて困難なことです。ウィルソン病保因者は、150200人にひとり位いらっしゃいますので、その機会はあると考えてよいでしょう。生まれたお子さんに、血液とか尿を使ってウィルソン病の有無についての検査をした方がよいでしょう。5歳過ぎに、血清セルロプラスミン値および尿中銅排泄量の検査をすることを勧めます。

3.ウィルソン病患者同志の結婚

 ウィルソン病患者同志の結婚もあり得ると思います。生まれるお子さんは、すべてウィルソン病患者です。生まれたお子さんは、35歳位のときから検査をして、早くから治療を開始すると良いでしょう。

 

4.生まれてきたお子さんの検査

 ウィルソン病患者から生まれたお子さんはどのような検査をすればよいでしょうか? 35歳の間に検査をして下さい。

@   血清セルロプラスミン値測定:20r/㎗以下であれば保因者か患者かもしれません。5r/㎗以下であれば要注意です。

A   血清銅値測定:65μg/㎗以下であれば低値と言えます。血清セルロプラスミン値が低いと低くなります。

B   血清ASTALT値測定:ウィルソン病患者ですと、3歳過ぎるとASTALT値が上昇することが多いです。血清ASTALT値が高い人は、血清セルロプラスミン値を必ず測定して下さい。

C   尿中銅/尿中クレアチニン値測定:1日蓄尿して尿中銅排泄量が100μg/日以上であれば尿中銅排泄過多となり、ウィルソン病診断基準の一つとなります。しかし、これは思春期以降の基準であり、幼少児や学童のウィルソン病患者では、1日蓄尿しても尿中銅排泄量が100μg/日には届かないことが多いです。そんな時は、尿中銅排泄量が1.5μg/s/日以上を基準とします。例えば、体重30sの子どもであれば、145μg/日以上ということになります。また、小さなお子さんは1日蓄尿することがなかなか困難なので、簡便な方法として、私たちの研究成績においては、1回尿にて、尿中銅含量(μg)/rクレアチニン比を計測して、0.2以上であれば尿中銅排泄過多と判断しています。ウィルソン病患児であれば、3歳過ぎる頃より尿中銅の排泄が増加します。

D   遺伝子解析:多少高価(約510万円)となりますが、血液を採集して遺伝子解析を行うことが可能です。遺伝子に異常があるかないか、1対両方ともに異常なウィルソン病患者か、保因者(1対のうち片方に異常がある場合)か、全く異常がないかの判断ができます。ただし、ウィルソン病患者であっても、今の段階ではすべて異常が発見できるとは限りません(8090%位といわれています。遺伝子検査の限界)。

 

 

 

 

V.おわりに

 

 今回は、ウィルソン病と遺伝をテーマにしました。ご不明な点、質問がありましたら、私の方にご連絡下されば、私の連絡先は下記のごとくです。

連絡先住所:〒2100848 川崎市川崎区京町2101

携帯電話09067907002

自宅TELFAX 0443336250です。

 

 また、原稿はウィルソン病患(児)者の敬称(様やさん)を省略いたしましたので、ご了承下さい。

 

                   平成2824日 立春

 

 

 

 

怠薬するとどうなるか。怠薬防止のための友の会の方略(私見)

 

                      ウィルソン病友の会顧問医師

                      東邦大学名誉学長・名誉教授

                        青 木 継 稔

 

 

 ウィルソン病友の会の皆様、お元気にお過しのこととお慶び申し上げます。

 いつも申し上げていることですが、ウィルソン病治療薬を、毎日忘れずに規則正しく服用されていらっしゃいますか。長期の怠薬、不規則な服薬、正しくない服薬(メタルカプターゼやメタライト等の銅キレート薬を空腹時に服用せずに食後に服用している)などにより、想像を絶する重篤な症状を突然に発現したり、劇症型肝不全となり突然に亡くなってしまったりする多くの症例を今だに経験します。怠薬の恐ろしさは、ウィルソン病友の会の全国大会や各支部会の際に、怠薬体験談や怠薬防止の色々な方々からのお話を通して、参加者には十分に伝わっている筈です。また、この会報を通して皆様にご理解いただいていると思います。

 問題は、ウィルソン病友の会に加入されていない多くの患者様、加入されていても会の行事に参加されなかったり、一度加入されたのですが止められてしまった患者様が多くいらっしゃることです。ウィルソン病友の会の患者様方の積極的な加入を呼びかけて行く活動を活発化することが必要と考えます。

 今回は私自身が経験したいくつかの怠薬による重症化したり、手の施しようもなく亡くなられた例を示させて頂き、怠薬の恐ろしさを知っていただきたく思います。繰り返しのお話が多いですが、どうぞ肝に命じて下さい。さらに、怠薬防止のために、ウィルソン病友の会の会員増加活動の活性化に対する私見を述べてみたいと思います。

 

T.怠薬により思いがけず不幸のどん底に突き落とされた症例について

 1.劇症肝炎に陥入った22歳女性例

 兄が13歳の時、原因不明の肝不全にて死亡。死後にウィルソン病と判明。8歳であった妹のOY嬢は、血清セルロプラスミン低値、尿中銅排泄増加および肝生検による肝銅含量著増があり、ウィルソン病と診断された。D-ペニシラミン(メタルカプターゼ)治療を開始された。中学・高校時代は、時々服薬を忘れることがあったが、まずまず検査結果は異状を示すまでには至らなかった。大学は故郷を離れて東京。独り生活をするようになり、東京の病院に紹介状を書いて貰い、1回のみ行き、その後は通院しなくなってしまった。理由は、大学生活が楽しくクラブ活動も面白くなった。薬を服用しなくても、1ヵ月経っても何ともない。3ヵ月、6ヵ月、さらには、1年経っても身体に変化なく、水泳の部活にも支障なく記録も伸びている。大学4年生の12月、就職も内定していた。感冒に罹患して治りかけの1225日、帰省しようと思ったが友人に「貴女、皮膚が黄色いじゃないか」と言われ、何となく気だるい気がした。夕食は、食欲がなく、翌朝も元気が出ない。近医を受診したら、救急車に乗せられ、私のいる大学病院に紹介されてきた。急性肝不全の状態にて意識がもうろう状態であった。Kayser-Fleischer角膜輪があり、血清セルロプラスミン低値、尿中銅排泄過多も著明であった。肝不全の治療、血漿交換など行い、家族の到着と肝移植の相談。しかし、急速に悪化して来院2日後に死亡した。剖検にて、ウィルソン病性肝硬変・肝萎縮が認められた。大学生活となり、怠薬が原因であり、1ヵ月怠薬しても身体は何ともない。数ヵ月、数年怠薬しても自覚症状がなく、自分は大丈夫と過信したことに起因した例であった。

 

 2.電車の中で吐血し救急車で運ばれて命をとりとめた男性例

 19歳男性。12歳のとき、手指振戦、言語拙劣、流涎(よだれ)、身体の捩れ(ジストニア)、書字拙劣などから神経型ウィルソン病と診断。塩酸トリエンチン(メタライト)にて治療開始。6ヵ月後に著明改善。数年後より怠薬が始まり、机の奥に薬を貯めていた。家族は怠薬に気づかず、本人も思い出したように薬を服用する時期もあった。怠薬しても症状が出ないので慢心してしまい、高校時代に入ってほとんど服薬しなかった。大学2年の時、電車に乗っていて突然に吐血した。次駅から救急車にて大きな病院に運ばれて、「ウィルソン病」を告げることによって、食道静脈瘤と診断され緊急手術により命を救われた。出血量約1000mℓという大量であり、輸血は1500mℓ位された。出血量がさらに多ければ助からなかったかも知れない。

 本人はその後は怠薬もせず、結婚もされて、2児の父親になっている。

 

 3.怠薬にて慢性肝不全から肝移植となった33歳男性例

 12歳の時、血小板減少性紫斑病から肝硬変と脾腫があり、ウィルソン病と診断された。D-ペニシラミン(メタルカプターゼ)にて治療開始。しかし、肝硬変、血小板減少、脾腫は不変であったが、大学卒業までは怠薬せず順調に過していた。就職してから、不規則な生活と怠薬が目立つようになり、肝硬変が悪化し食道静脈瘤も認められ、静脈瘤はクリッピング手術を受けていた。しかし、怠薬が進み、慢性肝不全状態に陥入り、銅キレート薬や亜鉛薬を服薬するも改善せずに、肝移植(母親の肝)を実施した。コメントとしては、思春期にかなり進行していた肝硬変例であったが銅キレート薬治療によって、ある程度改善していた。怠薬しなければ肝移植をしないで済んだと思う。

 

 4.長期怠薬により重い精神障害を発症した症例

 @無気力となり何もできなくなった女性

  24歳女性;10歳の時、振戦、流涎、言語緩徐、書字不能などの神経症状の出現した神経型ウィルソン病と診断された。D-ペニシラミンにも軽快。18歳ころより怠薬が目立つ。大学卒業後就職した。だんだん気力がなくなり、仕事・人づき合いも上手く行かずに、最近退職させられた。食欲も低下し、生理も消失、トイレにも行くことができなくなった。精神科医より“うつ状態”と言われ治療されたが余り変化ないので、私の方に紹介された。24歳と若いのでウィルソン病治療を再開すれば半年から1年で元に戻ると確信してメタライト治療と抗うつ薬にて治療した。約1年後に、元気になり再就職した。

 

 A怠薬して行動異常・うつ状態を呈した主婦例

 34歳女性;8歳の時、血液検査にて血清ASTALT中等度上昇があり、精査の結果、血清セルロプラスミン低下、尿中銅排泄増加よりウィルソン病と診断。メタルカプターゼにて治療開始した。30歳頃までは怠薬もせずに順調でした。結婚して、2児の母親となり幸福な家庭生活でした。ある時、宗教に勧誘されて、ウィルソン病を告白したら宗教活動することにより薬を服用しなくとも必ず治ると言われて、怠薬した。怠薬4年後より、上手く調理ができない、洗濯ができない、徘徊する、お化粧しない、子どもの勉強に変なことを言うので子どもが母親を避けるなどの異常行動やうつ状態が出現してきた。ご主人が精神科に連れて行って向精神薬・抗うつ薬の治療を行うも余り改善しない。怠薬4年間や通院していなかったウィルソン病治療して貰っていた小児科医師の所に行き、その医師より私の方に紹介された。メタライト治療にて、約2年後に軽快した。

 

 B怠薬により異常行動(盗みなど)・うつ状態を呈した38歳男性例

 13歳に肝硬変やKayser-Fleischer輪にてウィルソン病と診断された双生児のひとり;

 結婚して2児の父親であり、仕事も順調であった。45年間の怠薬をして、盗みなどの異常行動があり、うつ状態となり子どもたちも父親のそばには来なくなった。精神科にも入院したりしたが改善しない。怠薬が続きウィルソン病治療していた病院に行きづらいので私の方に来てくれた。年齢的に時間がかかるが、12年あるいはそれ以上かかって軽快できた。年齢が進むと、回復に時間がかかるが精神症状は改善できるが、必ず精神科医との連携が必要である。

 

 5.経済的な理由にて寿命を縮めることを承知の上に治療薬を半分以下にして約10年後に肝不全にて死亡した男性例

 62歳男性。兄が15歳頃に原因不明の劇症肝炎にて死亡し、剖検(解剖)にてウィルソン病性肝硬変と診断され、家族内検索にて血清セルロプラスミン低値と尿中銅排泄過多があり、8歳のときウィルソン病発症前例と診断され米国から送付されてきたD-ペニシラミン(メタルカプターゼ)にて治療開始された男性。青春期に多少の怠薬をしたことはあったが、長期に怠薬することはなかった。仕事も順調であり、結婚して子ども2人に恵まれた。50歳頃に世の中不況となり、リストラされてしまった。アルバイトをしながら家族を支えていたが、経済的困窮状態となってしまった。考えて考え抜いたのでしょう。私のところへ来て、「先生、ウィルソン病の治療薬を半分にするも私はどうなりますか。10年位は生きられますか?60歳位まで生きれば子どもの成長など父親としての社会責任を果せると思いますので・・・・」。私は返答に困ってしまいましたが、「私も未経験なので明確な解答はできないが、治療薬を半分にすれば10年位は大丈夫かもしれない。しかし、命は一度しかない。そんな馬鹿なことを考えないで、薬は正しく服用して下さい。」と話したことを覚えている。

通院回数は、年2回ぐらいに減り、したがって薬の処方量から推測すると、服薬量は半分か40%程度でした。10年後に彼は肝不全にて亡くなりました。コメントとしては、服薬量を減らせば怠薬と同じである。やはり、正しい量を正しいときに毎日服薬することが、寿命を延ばすことになるということ。

 

 まだまだ、多くの例を経験しておりますが、紙面の都合上、割愛させて頂きます。

 

 

U.怠薬防止のためのウィルソン病友の会の活動への提案

 

 ウィルソン病患者様は、ウィルソン病治療薬を怠薬しなければ、その人の天命・寿命を全うできると思います。わが国において、ウィルソン病治療が可能となって丁度50年となりました。友の会会員であり、設立当初より本会の事務局を支えて下さっている橋本哲雄君の御母上が当時の厚生大臣(今の厚生労働大臣)に直訴され、武田薬品工業を通して米国よりD-ペニシラミン(メタルカプターゼ)が輸入発売されて満50周年であることを忘れてはなりません。その当時より、50年以上にわたって、余り怠薬されず頑張って来られた方々はすでに60歳を超されて、大した障害もなくお元気でおられます。この方々が、本会会員のロールモデルとして、本会に貢献されていらっしゃることはとても心強い限りです。このロールモデルのウィルソン病の先輩方が70歳、そして80歳を迎えられることを祈念して止みません。

 

 

 ウィルソン病友の会は、1995(平成7)年514日設立であり、今年は創立20周年を迎えました。怠薬防止を最大の目的として、

 (1)会員(家族の含めた)相互の連絡・励まし・協力・相談

 (2)病気に対する理解を深める。とくに、治療の生涯継続性の実行励行(怠薬防止)

 (3)専門医師との気軽な相談可能な状況を作る

 (4)行政サイドへの働きかけ

 (5)全国難病の会との連携

 (6)その他

 を掲げて活動して来られました。当初56名でスタートした会員数は今では約300家族と発展して参りましたことは、ご同慶に堪えません。

 

ウィルソン病患者様は、わが国において推定約15002000名程度いらっしゃると思います。日本人の出生数は年間約100万人と著しく減少してきておりますが、私どもの全国調査推計では、約3.54.0万人に1人(出生数に対して年間)の発生と算出しました。したがって年間2530人のウィルソン病患者様が発生していると考えられます。治療法の進歩等により、死亡例は激減していますので、患者様の数は年々数10名は増加していると考えます。わが国における治療開始から50年ですし、当時治療開始された方々が60歳を越えられたとしても、日本人の平均寿命までは数10年以上ありますので、日本におけるウィルソン病患者数は、さらに増加すると思われます。

 

 怠薬防止は、ウィルソン病患者様の治療上最も重要な問題です。数ヵ月・数年怠薬しても何ら変化ないからと怠薬を続けることは寿命を縮めることになります。ある時突然に重篤な症状が出現した時は、とても危険なことであり、苦しい思いや命を落とすことがあるのです。絶対に怠薬してはいけません。

 怠薬防止は全ウィルソン病患者様の共通のテーマです。情報をすべてのウィルソン病患者様とそのご家族に流して、怠薬防止を呼びかけることが大切です。

 ウィルソン病友の会の活動方針の重要項目として、会員数の増加を図るように活動する必要があります。入会を待つのではなく、全国の病院や担当医師に積極的に働きかけて、ウィルソン病患者様の入会を促進することだと思います。ホームページの充実・リニューアルも役立つと思います。会誌やパンフレットを何部か担当医師あるいは学会発表されている医師に送付することも有用ではないでしょうか。送り先の病院とか医師については、ウィルソン病研究会等や私どもが協力できることがあると思います。 以上。

 

                           2015(平成27)年8

 

 

ウイルソン病の受容と生きること

 

ウイルソン病友の会顧問医師

東邦大学名誉学長・名誉教授    青 木 継 稔

           

は じ め に

 

ウイルソン病友の会の皆様、毎日お元気にお過しのこととお慶び申し上げます。いつも申し上げることですが、薬を正しく、規則的に、忘れずに服用されていらっしゃいますか。怠薬が続くと、必ず病状が悪化したり、今まで無かった症状が出現したり、突如に劇症肝炎になり死の危険に晒されたり、何もしたくなくなり精神的に障害が発現したり、色々なウイルソン病特有の症状が出てきます。怠薬が1日、数日、数週間しても、とくに何ともないのですが、数ヵ月、人によっては数年間怠薬しても自覚的に何の症状も出現しないことがあります。個人差が大きいのですが、怠薬によるウイルソン病症状は、多くは突然にやってきます。自覚症状に気付いた時は、自分が思っているよりも深刻な重い症状や検査所見の異常が出現しているのです。医師の立場から見ると、どうしてこんなに悪くなるまで分からなかったのであろうか、治療をしても元に戻るかどうか極めて不安を感じるほど困ってしまう状態、生死の心配な状態など、治療に困難を感じる場合が非常に多いのです。

怠薬して重い障害が出ても、幸いに治療が奏効して再び元に近い身体に復しても、二度あることは三度あるという諺がある如く、また怠薬を繰り返す患者さんがいることにも驚かされます。喉元過ぎれば熱さを忘れるとも言います。怠薬を繰り返し、何回も入退院を繰り返したり、治療不可能なために命を落とす患者さんをたくさん見てきた医師としての私は、落胆したり悲しい思いをしたり、限界を感じて絶望のどん底に落ちたりします。

どうぞ、絶対に怠薬をしないで下さい。

 

 

ウイルソン病を受け入れて強く生きる !

 

今年(2015・平成27)の2月、友の会の幹部のひとりの君島 敬氏より、5月の第21回ウイルソン病友の会全国大会に、『病気と共に生きる』 ことについて、会員に向けてのメッセージをとの依頼が舞い込んできました。ウイルソン病友の会全国大会15周年を記念して、当時会長(現代表世話人)の小峰恵子さんより、会報Will  14年間のあゆみ(結成式まとめ 261995514日〜2009326日)14年間の記録を刊行したいとの話がありました。タイトル『どう(銅)生きる』を私が命名させて頂きました。『どう(銅)生きる』をいつも絶えず考え続けています。

『病気と共に生きる』 『どう(銅)生きる』 は、ほぼ同じことと思います。 『どう(銅)生きる』 はウイルソン病に限定したことであり、『病気と共に生きる』は君島氏の指摘するように、ウイルソン病を含め、様々な病との闘い(向かい合い)ながら前向きに生きることを意味していることと思います。

病気を自覚し、病気を本当に心から自分に受け入れることの難しさは多くの経験から察することができます。できるだけ早い時期に、「自分の病気を受容する」ことが大切なことですが、受容が定着するまで何年、何10年とかかり、不信と受容の間を心が揺れ動くことが何年も続くことが多いかと思います。

有能な心理学者のキュプラー・ロスは、その研究から推察する患者さんやご家族の病気に対する心理学的変化を約5段階に分けられることを発表し、私どもも患者さんやそのご家族に病気の説明や病名告知する時から、診療の心の片隅にキュプラー・ロスの受容への5段階を考えながら実践しています。

ウイルソン病に限って、このキュプラー・ロスの5段階を考えてみましょう。

第一段階は、「信じられない。嘘でしょう。そんなことは私あるいは私の家族にもあり得ない。」という病名告知や病気の説明を聞いて感じられることの状況を言います。ウイルソン病と言われ、遺伝的疾患であるなど、正に青天の霹靂でありましょう。

第ニ段階は「否定」と言われます。「自分あるいは家族には、そんな病気はない。医者の誤診である。」など、色々と思いめぐらし、病気を否定してしまう心理状態を指すことと思います。ある父親は、自分の子どもがウイルソン病と言われて、多くの病院を回り、ウイルソン病を否定してもらいたいと歩き回る時期があると指摘しています。

第三段階は、「怒り」とされます。「あの医者が悪い。自分に対する怒りと家族や周囲に対する内面的不信。他人転嫁と自己責任に対する考えの往来もある。」などです。どこに怒りをぶっつけることもできず、夢遊病患者みたいになることもあるようです。どこをどう歩いていたか思い出せなかったり、何かを考え込んで自動車にぶっつかりそうになったという話を聞かされたことがあります。また、親を恨んだりして「生んでくれなければ良かった」などの暴言を吐いたり、あばれたりした患者さんもいました。思春期や青春期にぐれたり、不登校・引きこもりになった子も知っています。

第四段階は「落胆・落ち込み」です。病気を持った自分がとてもみじめに感じたり、生きることに自信が消失したり、生きる意味・意義に疑問を持ったり、明るい性格から暗い性格に変化してしまったり、してしまうことを指します。第三・四段階が同時に介在したりすることもあります。何事も信じられなくなって、自分の理解者がいなくなってしまったように思ったりすることもあるとのことです。

第五段階が「受容」という素晴らしい自覚の時期を指します。「病気を理解し、病気を受け入れ、病気と友達となって、病気とともに生きる」ことを意味します。受容に至るまでかなりの時間が必要ですが、受容することにより、より強くなれます。「病気と共に生きる」ことが「病気の受容」と共に生きる活力・精神力になるのです。

ある患者さんは、「ウイルソン病になったことにかえって感謝し、誇りに思って生きている」と仰有いました。生きる者は、必ずどこかで病気になります。時期が早い人から高齢になってから病気になる人までいます。また、誰も病気の遺伝子をひとつか2つあるいはそれ以上持っていると言われます。 皆様は、たまたまウイルソン病ということが分かり、色々な心の葛藤の中から、「ウイルソン病と友達となり、ともに生きる」ことへの受容が出来れば、強くなれます。幸いにして、まだまだ不治の病、子どもの頃に死を迎えてしまう病気が沢山ある中にあって、ウイルソン病は治療できる病気であることに感謝しなければなりません。

 

 

ウイルソン病と共に生きること

 

ウイルソン病に罹患したことに対しては逃げることはできません。周囲に無責任な人が多くいて、ある宗教に入信すれば病気は治ると勧誘を受けることもあるかもしれませんが、神様でもこの病気は治すこともできません。ウイルソン病と正面から向き合い、劣等感(インフェリオール・コンプレックス)を持つこともなく堂々と強く生きることです。

幸いウイルソン病は治療可能なのです。遺伝性疾患で治療できる疾患は数少ないのです。治療できる病気であることに感謝しましょう。いつも申し上げるのですが、怠薬せずに治療を継続すれば、皆様の授かった天寿を全うできることでしょう。ウイルソン病治療が、日本で開始されて50年になりました。幸いに、その頃あるいはそれ以前にD−ペニシラミン(メタルカプターゼ)治療を開始され、ほとんど怠薬されない患者さんは、もうすでに60歳を超えて元気に過ごされていらっしゃることは、患者さんにとって大きな励みになります。

ウイルソン病と共に生きることは、それほど難しいことではありません。以下、私の思っていることを箇条書きにしてみたいと思います。

1. 先ずは、絶対に怠薬をしないことです。生きるために必ず食事をしますね。食事と同じように薬を正しく、規則的に毎日服用しましょう。

2. 定期的に主治医・担当医の病院に通い、諸検査や医師のアドバイスを受けましょう。私自身も、1〜2ヵ月に1回循環器内科等に通っています。

3  食事療法を実施しましょう。D−ペニシラミン(メタルカプターゼ)や塩酸トリエンチン(メタライト)等のキレート薬服用者は銅の多い食品などを知り、摂食制限しましょう。また、薬は空腹時に服用して下さい。銅吸収阻害亜鉛薬(ノベルジン)を服用されている方は、レバーや甲殻類はなるべく避ける程度でよいでしょう。

 

以上の3点は、患者さんとしての最低限の守るべき医療・食事に関することです。

 

4  ウイルソン病と友達となることです。何度も書いてきましたが、ウイルソン病から逃げることはできません。だから、逆にウイルソン病であることと友達となって、卑屈にならず、恥かしがらず堂々と生きることです。

5. ウイルソン病の病状段階を理解しておきましょう。症状が全くなく早期発見された方は、怠薬しない限り、他の子・人( 健常者 )と全く同じ健康を保持できます。学校教育、就職、運動、日常生活、結婚、出産・育児、など普通にできて、天寿を全うできます。診断された時点にて、肝硬変が残っている人は、余り無理をしないことも必要ですが、長い間治療を継続することにより改善したりすることもありますので、自分の体力に応じて日常生活、学校生活、就職、結婚、出産・育児等が可能です。その後怠薬しなければ、寿命近くまでは十分に生きられるでしょう。神経症状の後遺症が残った人も、年齢が若いほど、また長期間の治療により徐々に回復することもあります。嚥下困難、よだれ、構音障害、手指振戦などが残ることが多いですが、それでも少しずつ回復することがありますので頑張って下さい。歩行障害、骨変形、寝たきりなどの神経症状が残った方は、ご家族や介護・福祉などの関係を保持し、医療面などの色々な特典を積極的に受けながら頑張って下さい。長い年月によって軽減することもあります。精神症状のある方は、ウイルソン病に対する主治医とその指示による精神科医の治療を受けることにより徐々に回復していきます。気長に治療を続けて、社会復帰できた方は多くいらっしゃいますよ。

6.  学校生活を楽しく送りましょう。小学校、中学校、高等学校そして大学・大学院は、普通の方と同じように受けられます。病気があることにより、集中して他児(者)に負けないよう頑張る方も多くいらっしゃいます。

7.  就職は積極的にしましょう。ウイルソン病であることを就職先に理解してもらうことが必要となりましょう。就職先の健康診断にて検査結果に異常が発見されることがあります。発症前で何の症状もない方は、ウイルソン病のことを伝えないで就職されることも多いかもしれません。入職してある時期に病気が出たことにして検査を受けることも致し方ないかもしれません。ある程度多少の障害のある方は、会社に入るときに障害者枠にて入職できることがあります(会社側は、何%かの人を障害者枠にて入職させなければならない法律がありますので)。仕事をし、働く喜びは生きる力になります。

8.  結婚、出産、育児は十分に可能です。女性患者さんの場合、結婚は積極的にして下さい。妊娠中は主治医のご指導とともに、治療薬を半分位減量して妊娠を継続します。出産し、生まれた新生児に身体的異常を来たすことは稀です(普通の人の妊娠・出産において異常児の出生率は数%あることを考えますと、案ずるより産むが易しと言えます)。

 

 

9.  家族とともに生きることは大切です。人には、喜び、悲しみ、怒り、楽しみの感情があり、愛と憎しみや嫉みがあります。愛情には、夫婦愛、親子の愛、兄弟愛、隣人愛、人類愛、男女愛など色々ありますが、色々な人に対する愛情は人間として生きる基本です。人はひとりでは生きていけないところがあり、助け合い支え合って生きてゆかねばなりません。自分が病気のときは支えてもらい、元気なときは家族や他の人を支える必要があります。辛いこと、哀しいこと、怒りたいことなども多く経験することもありますが、この感情はなるべく最小限の発現に止めて、楽しいこと嬉しいことを喜び明るい気持ちで前向きに生きることが大切と思います。

     自分が病気を持つことに悩み苦しんだことは、かえって他の人に優しい気持ちを持てるようになるかもしれません。人に優しく、人の心に寄り添える人間になれたらいいですね。

0. ウイルソン病の方々との交流をしましょう。ウイルソン病友の会を通して、悩める他のウイルソン病患者さんとの交流は、自分の成長にも良いと思います。全国大会や支部会などにも参加しましょう。

 

   まだまだ書きたいことがありますが、紙面の都合上、割愛させて頂きます。

 

 

 

ウイルソン病を受容して、病気とともに生きることについて私の見解を述べてみました。5月の全国大会の時には、このお話の続きや医師の立場からもお話をさせて頂きたく思っています。

 

                                          2015(平成27)年212

 

 

 

 

 

 

1回限りの命を大切に、強く明るく

楽しく生きてください。

― 薬を忘れず、正しく服用のこと 

                        ウィルソン病友の会顧問

                    ウィルソン病研究会代表幹事

                    東邦大学名誉学長・名誉教授

                             青 木 継

 

 ウィルソン病友の会の皆様、お元気でお過しのこととお慶び申し上げます。

 ウィルソン病治療薬(メタルカプターゼ、メタライト、ノベルジン)を毎日、忘れず、正しく服用していますか。どうぞ、怠薬(薬の のみ忘れ、薬を のまないこと)をしないで下さい。1日怠薬すれば、1日以上寿命を縮めると思って下さい。

 さて、本日は寿命のこと、命の大切なことなどを中心に記載させて頂きたいと思います。

 

ウィルソン病の治療法確立後58年経過

 

1956年、イギリスのWalsheがウィルソン病患者さんに、体内に蓄積した銅を体外に除去するため銅キレート薬(銅を結合して除銅する薬剤)であるD−ペニシラミン(メタルカプターゼ)を投与し有効であることを証明しました。それから、58年です。日本においては、昭和401965)年に武田薬品から新発売されて以来、約50(正確には、49)となりました。

 D−ペニシラミン治療法が確立以前は、ウィルソン病患者さんは20歳までにはほとんど亡くなられていました。したがって、ウィルソン病患者さんの寿命は、20歳に達しませんでした。

 日本にD−ペニシラミンが導入されて、投与を受けた当時のウイルソン病患者さん(いずれも10歳前後)5名を私はずっと診せて頂いています。怠薬をした2名は、すでに亡くなりました。(1名は劇症型肝炎、1名は肝硬変・肝不全でした)。怠薬を繰り返しましたが、その都度入院加療により改善した女性例、多少怠薬の経験のある男性1名、ほとんど怠薬をしなかった女性1名の3名は、60歳を越えましたが、現在も元気に生存されていらっしゃいます。とくに、ほとんど怠薬をされなかった方は、肝超音波検査、肝CT・MRI検査にても、軽い肝線維化所見のみでほとんど問題なく経過しています。

 D−ペニシラミン治療例の約2025%の方に 重大な副作用が発現して投薬ができない例があることが判明し、1972年、やはりイギリスのWalsheが、塩酸トリエンチン(銅キレート薬)をウィルソン病患者に導入し、その有効性・安全性を報告しました。わが国においては、大変遅れましたが株式会社ツムラ及び厚生省オーファンドラッグ(オーファンドラッグとは症例数が極めて少ない希少疾患に投与治療可能な薬:製薬メーカーは利益が少ないかあるいはほとんど利益のない治療薬にて、開発に手を出さないメーカーがほとんどの薬品)第1号が1995年承認され、メタライト-250(塩酸トリエンチン)として保険承認薬となりました。メタライト-250は、D−ペニシラミン不耐患者さんに適応となりましたが、神経型ウィルソン病にとても有効なことが判明してきました。副作用は、メタルカプターゼに比してとても少なく、安全性の高い銅キレート薬と認識されています。

 1998年、米国FDAは従来の銅キレート薬と全く作用機序の異なる腸管における銅吸収抑制薬として、亜鉛薬をウィルソン病治療薬に指定したのです。わが国におきましても、21世紀当初に、ノーベルファーマとアレフレッサファーマのもとに、亜鉛薬がウィルソン病治療薬(ノベルジン)として薬価収載され、広く使用されるようになりましたことは、皆様ご存知の通りです。ノベルジンは、メタルカプターゼやメタライトよりもさらに、重大な副作用はほとんど無いとされています。また、ウィルソン病治療薬としても、非常に優れていて、銅キレート薬のような銅制限食の実施の軽減や薬の服用の仕方の厳格性が多少緩和されたと思います。

 メタルカプターゼ58年(わが国約50年)、メタライト40年(わが国20年)、亜鉛薬20年(わが国6年)になり、多様な病型や多様な症状に対する治療薬選択の幅が広がり、副作用対策にも十分対応できるようになってきているのです。

 ウィルソン病患者さんは、怠薬しない限り長期生存が可能となり、天寿近くまで生命を保持できることも夢ではなくなってきていると思います。この件につきましては、以前にも、会報に書かせて頂きましたが、今ではその実感をより強くしています。

 

平成252013)年度日本人平均寿命

 

 厚生労働省は、今年の81日に平成25年度の日本人平均寿命を公表しました。男性が、

80.21歳(前年79.94歳)、女性が、86.61歳(前年86.41歳)であり、過去最高となりま

した。

 男性の平均寿命が、80歳を超えたのは初めての快挙であり、国際比較において、前年の

5位からひとつ順位を上げて、香港、アイスランド、スイスに次いで4位となりました。

 女性は前年に引き続き2年連続で世界1位です。女性は、平成22年まで連続世界一でし

たが、23年香港に抜かれて2位に転落しましたが24年に1位に返り咲き、25年も長寿世界1位を守りました。

「3大死因」と呼ばれるがん、心疾患、脳血管疾患の死亡率が低下してきていることがその要因とみられ、厚生労働省は、『医療技術の進歩により今後も平均寿命は延びる可能性がある』と分析しています。厚生労働省は、「今後さらに延びる」平均寿命は、長寿化となり、医療費の増加は避けられず、『病気なく生きられる“健康寿命”を延ばすことが、喫緊の課題』と言っています。23年度の健康寿命は男性70.42歳、女性73.62歳とされ、平均寿命と健康寿命との格差が大きく、厚生労働省は、「健康への意識の向上を図り、よりよい人生を送ってもらうため、生活習慣病の予防などを呼びかけていきたい」としています。また、平均寿命の男女差が大きい理由の一つは、生活習慣病につながる肥満や飲酒、喫煙などの男女差が考えられ、とくに生活習慣の改善により、日本人男性の平均寿命も世界一になり得るため、“健康”に対する正しい知識や考え方の実践が大切としています。

 

表  平均寿命の国際比較(歳)

 

 

男    性

 

女     性

1

  

80.87

 

1

日  本

86.61

2

アイスランド

80.80

 

2

香  港

86.57

3

スイス

80.50

 

3

スペイン

85.13

4

  

80.21

 

4

フランス

85.00

5

シンガポール

80.20

 

5

ス イ ス

84.70

 

 

私の考える『健康寿命』

 

昔から日本における健康については、『無病息災』という言葉があり、初詣での祈願にこの『無病息災』を念じ、『家内安全・無病息災』のお札を求めたりします。無病息災であることは理想的な健康であり、健康寿命は無病である寿命を指すことを意味するものと考えられます。厚生労働省も、長期加療や生涯加療を要する疾患を有する者は、高額な医療費がかかる人々と考えて、この健康寿命から省いている可能性が高いです。感冒などの

ommon diseaseなどは、誰でもがかかる病気なので、多少の医療費がかかることはとくに問題なしとしているようです。

 厚生労働省のような医療費抑制を考える『健康寿命』ではなく、医療費の問題を別にして、個人が日常生活を通常に行なえる状態にて、教育、就労、結婚、出産、育児なども行える状況を『健康寿命』と私は考えています。そうすれば、ウィルソン病患者さんの多くは、『健康』と定義できます。私自身も満68歳にて、心血管障害による心臓カテーテル手術を受けて以来、血液抗凝固薬、高血圧治療薬、動脈硬化予防薬および経口糖尿病薬を毎日服用しています。かなりの医療費がかかっていますが、現在の日常生活は全く普通ですし、ときにはハイキングをしたり、約3000メートルの高山にも行きますが、まだ大丈夫です。寝たきりになったり、認知症となったり、多少の介護が必要となったりしたら、いわゆる健康状態とは言えなくなります。

 『一病あるいは二病息災』でも、健康であることはいくらでもあります。ウィルソン病患者さんは、『一病息災』でありますので、日常生活など普通である方が圧倒的に多いと思います。これも、立派な『健康』と言えます。そのように定義すれば、ウィルソン病患者さんの『健康寿命』は、普通の人と全く変わりません。

 生命(いのち)は、一つしかありません。1回限りの命を大切にして下さい。薬を忘れずに、正しく服用して、強く、明るく、楽しく、正しく生きて下さい。

 最近の世相は、生命をそまつにしている状況が多く見受けられます。生命の大切さ、生命の尊さが忘れ去られているのです。ウィルソン病であることで生命を軽く考える人がいます。生命が失われれば、元に戻ることはできません。どうぞ、天寿まで全うできますように、生命を大切に強く明るく生きて下さい。

以上

                                  平成262014)年8月吉日

 

 

 

人間はどこから来て、どこに居て、どこへ去ってゆくのか

人間とは、生命とは、生きるとはどういうことか 

                     ウィルソン病友の会顧問医師

               東邦大学名誉学長・名誉教授

                               青木 継稔

 

 ウィルソン病友の会の皆様、今日は! お元気にお過しのこととお慶び申し上げます。

治療薬は、『正しく、忘れず、規則的にきちんと』服用していますか。怠薬・減薬の恐さ

を毎回お話申し上げていますが、怠薬による重篤な症状の急激な出現・増悪あるいは劇症肝炎により急死される方がかなりいらっしゃることは、残念でなりません。絶対に怠薬しないで下さいね。

 さて、本日は、世界的に有名な難病の一つALS(筋萎縮性側索硬化症)についてお話させていただきます。原則として、治療法がなくて、稀少疾患であると、難病と言われ、まだまだ、何千何百という疾患があります。ウィルソン病は、希少疾患ですが、治療法が確立しているため、厚生労働省は難病指定していません。治療法があることは、とても幸運なことです。

 

難病ALSについてのエピソード

 

 1939年、MLB(メジャーリーグ野球)のニューヨーク・ヤンキースの強打者として有名であった選手ルー・ゲーリック氏が、ALS(筋萎縮性側索硬化症)にて倒れました。強打者であったルー・ゲーリック氏は、涙ながらに引退セレモニーの際に演説した言葉は、米国大統領ジョージ・ワシントンの有名なあの演説の言葉に匹敵するほど、当時の人々に感銘を与えました。『私は病気に倒れたことは、大変に残念です。しかし、私は世界中の誰よりも幸せな人間です。こうして、野球を通して皆様に愛され親しまれたことを生涯忘れることはできません。』

 私の親しい友人であり、東邦大学医学部卒業の神経内科医の三本博(みつもとひろし)先生が10数年前に、コロンビア大学医学部神経内科教授:ルー・ゲーリックALS研究所所長に応募したいと、依頼が舞い込んできました。当時、東邦大学医学部長であった私は、私の東邦大学医療センター大橋病院小児科医局から、2名の医局員をコロンビア大学医学部のやはり東邦大学医学部出身であり、あの新生児APGAR(アプガースコアー)で有名なApgar教授のお弟子さんの森嶋久代教授のもとに留学してもらっていたこと、また、私自身も訪れて見学したこともあるあの有名なルー・ゲーリックALS研究所の思い出がありました。私は、三本博先生の在籍証明書と推薦状を書き、“三本先生が見事に、コロンビア大学神経内科教授:ルー・ゲーリックALS研究所長となられますように!”と心を込めました。三本博先生は、東邦大学医学部卒業後間もなく、米国に留学されました。よく勉強され、米国医師免許を取得し、神経内科医師となられました。そして、ある米国医科大学神経内科教授になられました。

 三本博先生は、とても実力があり、とくにALSに関しては世界でも良く知られ、米国内でもトップの研究者でしたので、見事にコロンビア大学医学部神経内科教授に決まり、ルー・ゲーリックALS研究所長に任用されたのです。

 

  ルー・ゲーリック氏は、野球人生にて稼いだ全財産をコロンビア大学に寄贈し、ALS専門病院・研究所を設立しました。ルー・ゲーリックは、進行性神経難病ALS患者として、ここで過し死を迎えました。このコロンビア大学医学部付属ALS研究所は、『ルー・ゲーリックALS研究所』と命名され、今日に至っています。

 

  ALSは、14世紀後半にシャルコーという研究者が一つの神経病疾患単位として確立報告し、完全な臨床的・病理的に記載しました。本疾患に対する研究は、1950年代に本格的に始まり、とくにこの20年間の研究の進歩は著しく、原因としてSOD(スーパーオキシドジスオキシターゼ) 遺伝子変異の発見、モデル実験動物の作成、さらに極めて重要なC90RF72という遺伝子変異が報告されました。現在は、信頼の高い仮説として、RNAの異常と蛋白の異常凝集の形成があるとされていますが、そのメカニズムの解明はまだ、今後の研究に委ねられています。新しい病因仮説の出現とともに、色々な治療薬が試みられてきましたが、残念ながら良い治療薬は、未だ見つかっていません。

 

  ALSは、運動神経が選択的に侵され、徐々に全身の筋肉が動かなくなり、寝たきりとなり、食事が自力で摂取できなくなって、さらに個人差はありますが、発病35年で

呼吸筋も犯され、ついに自力呼吸まで困難となり人工呼吸器が生命維持に必要となります。脳における知的活動は、犯されませんので、世界を驚かすような研究成果を発表される方が何人もいます。あの宇宙のビッグバーン現象を見出した有名なホーキン博士も、実は、ALS患者でした。

 ALS患者さんは、やがて呼吸不全などにより死に至る難病中の難病であり、それほど珍しい病気ではないのです。

 全世界のALS研究者は、きっと、21世紀のちに、完全な病因・病態の解明、さらに治療法を確立することと期待されています。

 

  平成25年(20138月、久しぶりに三本博コロンビア大学医学部神経内科教授:

ルー・ゲーリックALS研究所長の特別講演を聴き、ALS研究、ALS治療の進歩等から、いつしか、私の頭の中は、ウィルソン病について一杯になっていました。

 

ウィルソン病は、治療ができる幸運

 

 ウィルソン病は、ALSと同じ遺伝性の稀少疾患です。稀少疾患は、何千何百とあるなかで治療可能な疾患は数少ないのです。治療法が確立され、それも経口薬のみにて治療できるというウィルソン病治療は、奇跡に近いのです。

 ウィルソン病治療の今日から将来にかけて、最大の課題は、早期発見・早期治療です。とくに、症状発現前に発見して治療開始できれば、普通の人と同じように生活ができて、しかも、その人の持つ寿命を全うできるということです。

 ウィルソン病の治療の今日から将来にかけての第2の大きな課題は、怠薬の防止です。『喉元過ぎれば暑さを忘れる』という諺があります。ウィルソン病の色々な症状が出現して、治療が上手くできて、ほゞ回復してしまうと、怠薬する人が後を絶ちません。あんなにつらい思いをして、苦労して回復したのに、人間というのは、そのつらさ・苦労してきたことを忘れてしまう。何故か、しばらく薬をのまなくても何ともないではないか。病院の先生は、怠薬すると悪くなるから怠薬しないようにと言われるが、多少怠薬しても何ともないから、自分は大丈夫ではないかと、変な確信を持ったりする人がいるのに驚かされます。

 怠薬は必ず、あなたの命を縮めます。怠薬から症状の出現・悪化までは、個人差があります。数年から10年ぐらいの人もいますが、一旦、症状の悪化・新しい症状の出現があった時は、もう元には戻らないのです。急速に進行して、あれよあれよと言う間に、死に至る方も稀ではありません。若い時は回復することもありますが、加齢とともに症状の回復は、治療を再開しても困難なことが多いのです。

 上述のALS患者さんのことを思えば、怠薬するということは不幸中の幸運を自ら放棄することと同じです。絶対に怠薬しないで下さいね。

 

人間とは? 生命とは? 生きるとは?

 

 私は、フランスの画家ポール・ゴーガンのタヒチで描いた一枚の大きな横長の絵画・題して、『人間は、どこから来て、どこに居て、どこへ去ってゆくのか』が、忘れられません。人間は、この地球上に、何をするために生まれてきたのでしょうか。生命とは何なのでしょうか。心とは何ですか。身体の役割は何ですか。心と身体の関係はどうでしょうか。

 明治・大正・昭和に生き抜かれ、見事に病魔を克服された中村天風先生(医師)は、その96歳の生涯を通して、「運命を拓く 天風瞑想録 (講談社出版、1998) を著されました。

 生命は、生きて生きて、ひたむきに生き抜くものです。生き抜くために、生命は、強い力と素晴らしい智恵が与えられているということです。生命は、この力と智恵を行使して、絶妙な創造活動を行うことができるのです。人間は、創造活動を通して進化して向上するのです。人間は積極的に生きねばなりません。

 自分の命の中に与えられた生きる力は、限りない強さと、歓喜と、沈着と、そして心の平和を作り出します。我々の生命の中にある肉体や精神生命は、一切の人生における事柄を、心の活動によって決定できる真実を知る必要があります。

 心を常に積極的に持ち、いかなる場合にも、心を清く、強く、正しく、尊く持たねばなりません。とくに、病の中にあるときは、とくに心を積極的に前向きに持つことが大切です。絶対に消極的になってはいけません。人間に生まれてきた本当のありがたさを正しく知るべきであり、病や健康上の問題や運命上の問題を、自分の力・自分の心を積極的に、前向きに持つことによって、何も大した努力をしなくとも、いつも元気一杯な状態で人生を生きて行くことができるのです。

 病になったり、不運になったりすると、「自分には何も責任がない。その責任は他にある」と思ってしまうことがあると思います。勿論、自分がそうしようとか、そうなろうとしたのではないことは分っていますが、いつの間にか、自分の知らないところに、病が忍び込んできたり、不幸・不運が舞い込んできたりしてしまうのです。それで、自分には何の責任がないのにと思うのですが、そういう風に思うのはとんでもないことです。病も不運も、残念ながら自分の肉体や精神から生じてきたものであり、そのように思わなければなりません。自分の肉体や精神の中に、その病や不運の種が蒔かれていて、その種子の通りに花が咲いたのです。他人に転嫁してはなりません。そんな時だからこそ、自分の心の持ち方を消極的にしてしまい、何事もやたらに、悲観したり心配する考え方を早く止めましょう。病のとき、心配すればするほど回復が遅くなり、心配や悲観は、さらにその人の人生を惨めな状態にしてしまうのです。そんな時こそ、そんななかにも、生まれ甲斐があり、生き甲斐のある人生を生きようと欲する積極的な姿勢は、生命力を強くします。病との戦いに勝つためにも、心の力が大きいのです。『勇気は常に勝利をもたらし、恐怖は常に敗北を招く』という諺があります。

 たとえ、身に病があっても、心まで病むことはありません。一切の苦しみをも、なお楽しみと為すほどの心強さを持ちましょう。

 たとえ、病があっても、常に感謝と歓喜という積極的な感情と心を持っていれば、きっと、肉体的・精神的にも非常に良い結果をもたらすことでしょう。

 

皆様どうぞ、心を前向きに積極的に持ち、常に感謝の念を忘れず、生きている喜びを満喫して強く生きていきましょう。

 そして、怠薬を絶対にしないと毎日毎日努力して下さい。

                          2013(平成25)815

 

 

 

 

 

ウイルソン病は難病指定されないか

                 ――― OY君の死を悼む ――― 

                                ウイルソン病友の会顧問・東邦大学名誉学長

                                                       青木 継稔

 

友の会の皆様、今日は!お元気にお過しのことと存じます。ウイルソン病は、何千とある遺伝性代謝異常症の中でも数少ない薬物治療可能な疾患です。早期発見・早期治療により、治療薬を忘れず毎日服用していれば、その人の持つ天寿に近い寿命を得ることができます。しかも、ウイルソン病特有の症状も出現しないか、軽度の障害・症状を残存するかぐらいにて、日常生活が普通の人と同じように可能です。診断・治療が遅れてしまい、かなりの神経症状が残ってしまったり、肝硬変の進行した状態の方であっても、年齢が若い人ほど、時間がかかりますが、少しずつでも改善して行きます。あきらめず、大きな夢と希望を持って努力して下さい。必ず、良いことがあります。

 ウイルソン病は、出生3〜3.5万人に1人の頻度で生まれますので、日本においては計算上、数千人の患者さんがいらっしゃることになります。私どもが、10数年前に、厚生労働省研究班にての全国調査では、約500名強のウイルソン病患者さんを把握しました。治療薬メーカーさんの治療薬追跡調査でも、同じ様な患者様の存在を把握していらっしゃいます。推計ですが、多分、千数百名はいらっしゃると考えています。

 患者数からみれば、稀少(極めて稀)疾患であり、遺伝性代謝性疾患の中では、小児慢性特定疾患による公的医療費補助を受けている疾患の中では、最も多い疾患となっています。

 ウイルソン病は厚生労働省の見解によれば、治療可能な疾患であり、“難病”指定をしていません。したがいまして、20歳を越すと、東京都を除いて、他のすべての都道府県において、医療費の助成が受けられません。残念なことですが、今のところ、仕方ありません。でも、あきらめずに地道に努力することにより、また、道が拓けるかも知れませんので、友の会の大きな活動方針の柱に掲げておくべき重要な事項と考えております。

 

  ウイルソン病は治療の基本を忘れないこと

 

ウイルソン病の発見当初、発症・診断時の急性期治療は、専門医師が懸命に担当して、急性期を乗り越えます(この事は今回、詳細に書きません)。退院後の治療のことです。

(1)  治療薬を忘れず、生涯服薬すること

 銅キレート薬(D‐ペニシラミン、塩酸トリエンチン)、銅吸収阻害薬(亜鉛薬)があり、患者さんによって選択されますが、これらのウイルソン病治療薬を忘れずに、毎日、生涯にわたって服用しなければなりません。

 忘れてしまう、長い間怠薬すれば、必ず近いうちに(数年以内に)、不幸な出来事が、起きます。急激に、命を失くす人が多くいらっしゃいます。早く気づけば、専門医師の努力により、回復することも多いです。でも、潜在的に、脳や肝あるいは腎などの臓器障害は進行してしまうのです。恐ろしい目に合った方々が沢山いらっしゃると思います。

 忘れてしまうと、寿命が短縮してしまいます。怠薬あるいは減薬(自分勝手に!)して、亡くなった方のことを最後に記載します。

 

(2)  銅含量の多い食品を摂取制限すること

 銅キレート薬を服用されていらっしゃる方は、銅含量の多い食品は、なるべく摂取しないように努力して下さい。

亜鉛薬を服用されておられる方でも、レバー等は避けて下さい。亜鉛薬は、比較的銅食事制限は、ゆるやかでよいでしょう。

 

 () 日常生活上の留意点

 過度のアルコール摂取は、肝臓によくありませんので、毎日アルコールを飲むことは寿命を確実に縮めます。お祝いごとなどにて、多少召し上がることはよろしいと思います。

 過食による肥満も避けた方がよいでしょう。

 喫煙も脳病変によくありませんし、癌発生の頻度が著しく高くなりますので、避けるべきです。

 

人間らしく生きて人生を楽しむこと

 

(1)  ウイルソン病であることをよく知り、恨まないこと

 とくに、若い方々は、自分がウイルソン病であることに自暴自棄となってしまうことがあります。気持ちはよく分かるのですが、親を恨んでみたり、世の中をはかなんだり、絶望したり、しないで下さい。必ず、立ち直って、自分をしっかりと、自分で支えて下さい。悪い仲間に入ったり、麻薬に手を出したりしたら、なかなか抜けられなくなり、怠薬も進み早く死ななくてはならなくなります。

 苦しいこと、つらいこと、つまらないと思うこと、将来の夢を絶たれてしまうと思ってしまうこと、自分だけが何故・このような病気になってしまったのか、等々悩みを抱えると思います。そんなときは、この友の会のなかから、友達を作って一緒に話し合ってみたり、同じ病気の先輩のお話を聞いたり、相談してみることで、大きく一歩前に踏み出せることもあると思います。

 極端かも知れませんが、ウイルソン病であることが、かえって病気の克服の経験が大きな自信となり、大きな夢と希望に向かって努力され、実られる方々を沢山みてきました。

 絶対に卑屈になることは全くありません。人間誰しも、数個以上の遺伝子の異常を持っていて、遅かれ早かれ、いつの日か、生涯の中で、病気が出現します。あなたは、たまたま、ウイルソン病遺伝子に異常があって、早く病気になっただけです。でも、幸いなことに、ウイルソン病は治療が可能なのですよ。とても嬉しいことですね。治療不可能な疾患は、沢山ありますので不幸中の幸いということでしょうか。でも、不幸という言葉は良くありませんね。

 

(2)  素晴らしい人生を謳歌して下さい

 治療できるということは、本当に幸せと思って下さい。正しく服薬すれば、一度の人生を、もっと豊かに、もっと楽しく、夢と希望と感動の日々を送れることと思います。そして、普通に努力すれば、自分の夢と希望は、必ずや叶えられるのです。

 どうぞ、命を輝かせて、日々感動の人生を謳歌して下さい。

私の周りには、音楽家、医師、看護師、薬剤師、栄養士、臨床検査技師、公認会計士、大学教員、学校教員、技術者、会社員など、ウイルソン病を克服して頑張っていらっしゃる方々が沢山いらっしゃいます。素晴らしい方です。IT関連の専門家もかなりいらっしゃいますよ。

 

怠薬・減薬を繰り返したOY君の死を悼む

 

昨年(2012)9月12日(水)、約2か月ぶりに、私自身の診療のために、東邦大学医療センター大橋病院循環内科外来に受診しました。小児科医局に顔を出した途端に、私が永年、診療してきたOY君が63歳の人生を閉じたとの速報が私のところに入りました。寝耳に水でしたので、大変な驚きとショックでした。ご家族の同意を得て、剖検(胸腹部のみ)されるということにて、自分の診察時間の間をぬって剖検室に立ち会わせていただきました。死因は、蜂窩織炎(蜂巣炎:皮膚・皮下組織の細菌感染症)があり、さらに肝不全(肝硬変による)が主因でした。肝を拝見したときは、@著しい萎縮(小さくなった肝)、A表面黄褐色調の凸凹(細かい)ある肝硬変(ウイルソン病肝硬変)、B中等度脾腫、C食道胃等の静脈瘤(りゅう)、などを観察しました。私は一見して、慢性肝不全(ウイルソン病肝硬変が原因:かなり進行した状態の肝硬変)があり、低蛋白血・低免疫グロブリン血状態にて細菌感染(蜂窩織炎)が加わり、悪循環による肝不全であったことを察知しました。

OY君は、お兄さん(多分)が若くして劇症肝炎型ウイルソン病にて亡くなられ、家族内検索にて、低セルロプラスミン血症、尿中銅排泄増加があり、10歳前後にてウイルソン病と診断されました(このときの診断担当医は有馬正高先生)。当時は、日本においてウイルソン病治療薬は入手できない頃でした。有馬先生が米国のシャインバーグ教授とスターンリーブ教授のところに頼み込んで、私的に数名分のD‐ペニシラミンを送って貰うことが可能となった頃でした。その頃、有馬先生のもとに、4〜5名の10歳近辺のウイルソン病の子どもが発症前診断(上の兄姉がウイルソン病にて亡くなり家族内検索にて診断された)されていました。その中の1人がOY君でした。昭和4041年に、D‐ペニシラミンが厚生省(現厚生労働省)の認可により治療薬として輸入されるようになったようです。OY君は、ご両親のご努力および本人のご努力もあり、怠薬もほとんどなく、学業を成就され、就職・結婚と順調に過されてきました。私は、昭和45年から有馬先生の後からOY君の担当医となって、子どもの頃から青春期、青年期、壮年期と平成20年頃まで診療していました。私の学長職多忙と教授職終了などもあり、その後は、清水教一准教授にOY君の担当医を代ってもらいました。

私の担当中、今から10数年前になりますが、OY君の勤務している会社から突然に解雇されてしまい、大変なことになってしまったとのお話をお聞きしました。OY君は、ウイルソン病友の会の発足当初から数年間は、事務局をも担当してくれていたのです。しかし、職場を失ってからは、生活が大変ということにて、ウイルソン病事務局とも何となく離れてしまいました。OY君は、社交ダンスという趣味があり、社交ダンス教室の教師ということにて何とか生計を立てているとのことでした。そのうち、病院に来られる回数も減ってしまったので、OY君に電話したこともありました。ある時、「先生!。自分は自分の病気のことは十分に分かっているつもりです。収入が少ないので、D‐ペニシラミンを減らして服用します。」と宣言されたことを昨日のことのように覚えています。「そんなことしたら、きっと、後10年は生きられないよ。薬だけは、正しい量を規則的に毎日服用しないとダメだよ。」と何回も話しました。OY君は、「生活が大変だから、薬代を半分にして、それでダメになったら仕方ない」という覚悟をしていたのだと思いました。それでも,10年は生き延びられたのだと思います。OY君の精一杯の生き方だったのだと考えます。

でも、怠薬・減薬しなければ、きっとご両親のように長生きできたことでしょう。

日本のウイルソン病の初期からの治療者のひとりとして、本当に残念です。ご冥福をお祈り申し上げます。残されたご家族は、OY 君の分まで頑張って長く生きて、彼の気持ちを弔ってあげて下さい。私自身も、OY君のことは、生涯忘れません。

また、彼の懸命に、ご家族を思って生きてきた殊勝(けなげ)な気持ちを大切に思います。

また、怠薬・減薬が寿命を短縮することを身を持って、友の会の皆様に教えて下さったことに感謝したいと思います。

     

        2013(平成25)年2月19日 記

 

 

 

 

 

ウイルソン病100周年を迎えて

ウイルソン病友の会顧問医師 

東邦大学・学長 

 青木 継稔

 

ウイルソン病友の会の皆様、お元気でいらっしゃいますか。

毎日、ウイルソン病治療薬を忘れずに服用していますか。怠薬(治療薬を忘れて服用しないこと)すれば、必ず、確実に身体の中に銅が蓄積して臓器障害が進行します。肝障害・肝硬変、進行性錐体外路症状、精神異常、腎障害などが、潜在的に進展し、自覚症状が出現したときは、相当に障害が進んでいるのです。症状が出現した場合、年齢が若い人は、治療を再開すれば軽快することが多いのですが、加齢により治療を再開しても、治療効果が少なく、不幸な転帰をとったり、重篤な後遺症を抱えてしまうことが多いのです。自分は大丈夫と、変に過信する方が多くいらっしゃることに驚きますが、そんなことは全くありません。怠薬しても、自分は大丈夫であり、悪くならないと過信したとしても、あるいは何らかの宗教を信ずることにより、良くなることは絶対にありません。絶対に怠薬はしないようにして下さい。

 さて、今年は、『ウイルソン病100周年』を迎えました。以前、『会報Will(「どう(銅)生きる」、2009年5月、P110 115 )に、「ウイルソン病の歴史を知ろう 〜温故知新〜 」を記載してありますことと、多少重複してしまいますが、もう一度、ウイルソン病の歴史を振り返ってみたいと思います。この歴史を知ることにより、ウイルソン病に対する認識を深めていただければ幸いです。

 

ウイルソン病の歴史・研究

        

      1、ウイルソン病の発見

1912年、ウイルソン(Wilson  S.A.K.)博士は、『肝硬変を伴う進行性レンズ核変性症の家族例:Progressive  lenticular  degeneration ; a familial nervous disease associated with cirrhosis of liver(Brain 34:295-307,1912) と題した論文を発表しました。このウイルソン博士の報告例は、すでに報告されていたWestphal1883)やStrumpell1898)らの「仮性硬化症」と極めて類似していて、しかも、家族内発症があり、肝硬変を伴っていることから肝硬変と錐体外路症状(レンズ核変性による錐体外路症状:仮性硬化症)との間に明確な関連があることを初めて指摘した重要な論文でした。また、眼科医のKayser1902)とFleischer1903)が仮性硬化症患者の角膜(眼)に緑褐色〜緑黒色の輪状の色素沈着を発見して報告したことにより、後に、カイザー・フライシャー(KayserFleischer)角膜輪として有名になりました。

 仮性硬化症とレンズ核変性症は、同一の病気であり、肝硬変の合併、カイザー・フライシャー輪の存在もその特徴であることが判明して、ウイルソンの報告を評価して、『ウイルソン病』もしくは 『肝レンズ核変性症(hepatolenficular degeneration)』と呼称されるようになりました。現在は肝レンズ核変性症よりもウイルソン病と呼称することの方が世界的に多いようです。

 

2、ウイルソン病と銅代謝の異常の判明

(1)       各臓器に銅が増加していることの発見

1913年、 Rumpelは、ウイルソン病患者さんの脳に銅が過剰に存在して

いることを初めて発見。その後、多くの研究者により、脳、肝、腎、角膜な

どの諸臓器にも銅の過剰沈着が報告され、確認されました。

 

(2) 尿中に銅が過剰に排泄

   1948年、 Mandelbroteらは、ウイルソン病患者さんの尿中に銅が著しく増加して排泄されていることを発見し報告した。普通の人は(ウイルソン病ではない人)の尿中には銅はほんの僅かにしか排泄されません。その後、尿中銅排泄増加が、ウイルソン病の臨床的な診断のために重要な検査となりました。

 

(3)       血清セルロプラスミン低値の発見

1952年、ScheinbergGitlin Dは、ウイルソン病患者さんの血清セルロプラスミン(銅結合蛋白であり鉄代謝にも重要な役割をしている)値の低いことを発見したのです。ウイルソン病においては肝でのセルロプラスミン合成障害があり、血清セルロプラスミン低値となることが後日に明らかにされました。血清セルロプラスミン低値により、ウイルソン病の診断の指標とされます。

 

3、ウイルソン病は常染色体劣性遺伝性疾患であることが判明

(1)       家族内発生の指摘

1912年に発表したWilsonは、初めて、家族内発生を記載しました。

 

(2)       常染色体劣性遺伝

  1921年、Hallはウイルソン病が常染色体性劣性遺伝を示唆しました。1960Bearnは多数のウイルソン病家系分析の結果、本症は常染色体劣性遺伝形式をとることを確証しました。日本においては、やはり1960年代に、有馬正高先生が詳細な家系分析の結果、本症が常染色体劣性遺伝性疾患であることを明らかにされました。

 

4、ウイルソン病の治療法の開発とその進展

(1)             銅排泄促進の工夫

 1951年、Cumingsは、銅キレート薬としてBAL(β,β-dimercaptopro-panol)

を本症患者さんに連日筋注して、その有効性を最初に報告しました。さらに、銅キレート薬としてEDTA投与、銅吸収阻害薬として硫化カリウム経口投与などが試みられましたが、とくに有効であったという報告はなく、BALの有効性のみが報告されたに過ぎませんでした。BALの有効性は認められましたが、毎日毎日、筋肉注射することの問題や副作用への不安がありました。

 

(2)             D‐ペニシラミン療法の確立

 1956年、Walsheはペニシラミン(銅キレート薬の一つ)が本症に著効することを発表し、BAL筋注の疼痛・苦痛の解放と銅キレート薬の経口投与を可能にしました。初めは、DL型ペニシラミンが使用されたのですが、副作用が多いため、D型(D‐ペニシラミン)が広く用いられるようになり、同時に低銅食療法も併せて提唱され、ウイルソン病におけるD‐ペニシラミン療法が確立し普及したのです。

 

 

(3)             D‐ペニシラミンの副作用と塩酸トリエンチン

 上述のごとく、本症に対するD‐ペニシラミン療法が確立されたのですが、D‐ペニシラミンに対する不都合な副作用の問題が多く報告されるようになりました。とくに重篤な自己免疫反応による様々な疾患の出現は、D‐ペニシラミン治療の継続が出来なくなる本症患者の約25%にも達したのです。

 1972年、やはりイギリスのWalsheは塩酸トリエンチン(トリエン)の銅キレート効果があり、本症に極めて有効であることを報告し、D‐ペニシラミン不耐患者に大きな光明を与えてくれました。塩酸トリエンチンは副作用が少ないということも、その後判明しました。

 

(4)             亜鉛薬(銅吸収阻害薬)の登場

 1961Schouwinkは本症患者さんに治療目的にて亜鉛剤を投与したということですが、特別論文として発表されませんでした。その後、1983年に米国のBrewer らは、本症に対する亜鉛薬(酢酸亜鉛)の有効性を報告しました。ほぼ同時期の1984年に、オランダのHoogenraadらは硫酸亜鉛の経口投与が本症患者さんに有効であることを発表しています。1997年、米国FDAはウイルソン病治療薬として酢酸亜鉛を承認しました。

 日本においては、2008(平成20)年4月に、亜鉛薬(ノベルジン)が承認され、薬価収載・保険適用となりましたことは皆様がすでにご存知のことであり、多くの方々が服用されていらっしゃいます。

 

(5)             肝移植の導入

 ウイルソン病肝不全患者さんに、最初肝移植を行なったのは、1971年、Dubois RSらでした。その後、神経型ウイルソン病にも肝移植が実施された例の報告がなされました。ウイルソン病における肝移植は、劇症肝炎型や慢性肝不全例には極めて有効ですが、本症の肝移植の適応(肝移植をすべきかどうかの判定)については慎重にすべきであるという意見が多いのです。

 肝移植後は、免疫抑制薬の服用が必要であり、高額な医療費が生涯必要(ウイルソン病治療薬に比して極めて高価)となります。

 

(6)             新しいキレート薬TTMについて

 TTMtetrathiomolybdate:テトラチオモリブデン)は、経口投与可能であり、腸管細胞から吸収されて、銅―アルブミン―モリブデン結合体を作り、肝細胞に蓄積した銅を除去する作用を有し、恐らく胆汁中を経て糞便中に銅を排泄すると考えられ、一部は尿中にも銅が排泄される成績があり、急性期ウイルソン病患者さんに有効であるとされ、今後の新しい除銅薬として期待されています。しかし、現状では世界のどの国においても認可されていません。劇的な効果も期待され、安全性を含めた治験を行って応用すべきものと考えます。

 

5、ウイルソン病責任遺伝子の発見(クローニング)

 1993年、私ども教室の山口ら、BullらおよびTanziらにより、ほぼ同時期にそれぞれ3ヵ所の研究室から、ウイルソン病責任遺伝子が取り出されました。ウイルソン病責任遺伝子は、ATP−7Bと命名され、細胞内膜蛋白であり、6個の銅結合部位を持つATPase familyの一つであることが判明しました。ウイルソン病責任遺伝子は、細胞内の銅を運搬する重要なATP−7Bという蛋白であり、ウイルソン病患者さんはこの遺伝子に異常があり、正常に働くATP-7B

を作ることができず、働きの悪いあるいは働かない異常なATP−7Bが出来てしまうのです。 ウイルソン病責任遺伝子の発見は、本症の分子病態の解明や遺伝子診断ができるようになったことなど色々なことへの応用が可能となりました。さらに、将来の遺伝子治療への道も拓けたことになります。

 ウイルソン病患者さんのATP−7Bの異常は多くの種類が発見されています。ウイルソン病患者さんは、自分の遺伝子変異を調べてもらうことも重要ですが、今後は数万円〜5万円ぐらいの費用がかかると思います。

 

6、ウイルソン病モデル動物について

 ウイルソン病の原因・病態解明や治療法の開発などには、モデル動物が極めて重要です。1991年、李らは私どもの教室および北海道大学の故武市教授との共同研究にて、LECLongEvans Cinnamon)ラットが本症のモデル動物であることを報告しました。さらに、1994年、私ども東邦大学医学部第2小児科学教室と米国セントルイスのワシントン大学のGitlin JDらのグループとの共同研究にて、このLECラットのウイルソン病遺伝子の異常を見出し、山口之利が筆頭者として論文発表を行い、LECラットが文字通りにウイルソン病モデル動物であることを確証しました。また、1983年、Rauchらにより報告されたtoxic milk mouseも、1996年にウイルソン病遺伝子異常が見出されて、改めてウイルソン病モデル動物として認識されました。  

 

 

 

 

ウイルソン病100周年と今後について

                  

ウイルソン病研究の歴史は、上述のごとくであり、今年(2012年)、100周年を迎えました。この100年の間に、多くの先人たちの研究のご努力により、

本症が銅代謝の異常をきたす遺伝性疾患であることが明らかにされてきました。さらに、本症の病因・病態が究明され、とくに遺伝子の発見・クローニングは画期的なことであり、分子生物学的な生体内銅代謝の解明やウイルソン病の分子病態などの解明がなされて、さらに、この50年の間は、治療法の研究開発など、素晴しい発展を遂げて参りました。

 しかし、ウイルソン病や銅代謝に関する研究のすべてが解決したわけではありません。例えば、ウイルソン病の中枢神経症状の発症機序や脳内銅代謝機序

などはほとんど解明されていません。銅は、生体にとって必須微量元素ですが、まだまだ不明な点が多いのです。本当の銅の栄養所要量、銅と亜鉛・鉄などの重要重金属との生体内相互作用などもまだまだ未知な部分が多いのです。

 従来は、難病の一つと言われ、ほとんどの患者さんは20歳まで生きていられませんでした。今は、治療薬のお陰にて、怠薬さえしなければ恐らく天寿を全うできることも可能になってきました。ウイルソン病の今後の展望について、以下にまとめてみました。

 

1、ウイルソン病の今後の展望

(1)臨床的事項

@早期発見・早期診断・早期治療

あらゆる医師がウイルソン病を認識して日常診療を行い、疑いを抱くこと。

A発症前スクリーニングの必要性

B合併症とその対策

@ 肝癌との関連性と早期発見

A 肝硬変の合併症対策

B 重篤な神経症状対策

C 精神症状とその治療

D 血液学的異常(血小板減少など)

E その他

  C劇症型ウイルソン病対策

@ 透析  A 肝移植  B 発症予防のためのスクリーニング

D怠薬防止(友の会の充実)

E保険・医療・福祉・社会的支援

@ 医療費助成   A 就学支援   B 就職支援

C 精神的サポート   D 妊娠・出産支援 

E その他 保健・福祉

 

(2)基礎的事項

@遺伝子型と病型

A遺伝子治療

B肝癌発生メカニズム

C脳障害発生機序

D銅と亜鉛の相互作用

E銅と鉄の相互作用

F銅の生理的役割のさらなる解明

Gその他

 

2、ウイルソン病研究には患者さんのご協力が絶対に必要

 上述のごとく、ウイルソン病研究の歴史は、研究者と患者さんとそのご家族の協力のもとに発展してきたと言っても過言ではありません。今後においても、益々協力関係が必要であることに変わりありません。

例えば将来に向けての問題点の一つは、我が国における本症患者さんの治療歴はまだ40数年です。40年前に治療を開始した本症患者さんは50歳を越えて参りました。あと10年、20年、30年先はどのようになるのでしょうか。本当に天寿を全うできるか、何か合併症が出ないか、60歳を過ぎても薬の量はそのままでよいのか、など沢山の問題があると思います。

 ウイルソン病研究は、患者さんの色々なデータを多く集めて解析することが重要です。そして、その研究が進展することは患者さんの診断や治療への進展となり、さらなる恩恵がいつの日にか必ず戻ってくるのです。研究者や臨床家の地道な研究に是非ご協力下さい。

 

 以上、『会報Will 20095月号の記載と重複することが多くありましたが、ウイルソン病100周年ということにてお許し下されば幸いです。

以上

2012(平成24)年215

                                                                                                                                   

 

 

 

 

 

 

東日本大震災・福島第一原発事故とウイルソン病治療薬

 

 ウイルソン病友の会顧問医師

                       東邦大学長

                                                                                    青木 継稔

 

1.『薬を正しく、忘れず服用していますか』

 

 ウイルソン病友の会の皆様、お元気にお過しのこととお慶び申し上げます。いつも申し上げていることですが、薬を正しく、忘れずに服用して下さいね。現時点では、生涯にわたって飲み続けなければなりません。怠薬が続けば、確実に自覚症状がなくても身体の色々な臓器が障害されていきます。肝障害や神経症状あるいは腎障害、さらには精神症状などの自覚的・他覚的症状が出てきたときは、考えられないほど、各臓器障害が進んでいることに驚ろかされます。また、思春期や青春期のときに、薬を服用すると、比較的早く、症状の消失や改善、種々の検査所見の改善や正常化が見られたのですが、成人期に達し、加齢とともに、回復が遅くなったり、回復せずに症状の固定化が問題となります。怠薬により、再治療を行っても不幸な転機(死亡)をたどることも少なくないことを、よく知っておいて下さい。宗教や神頼みにて、良くなることはありません。とにかく、「正しく、忘れずに薬を服用する」以外にありません。

 

2.東日本大震災・津波・福島原発事故の被災者の皆様にお見舞申し上げます

 

 去る2011年3月11日に発生した東日本大震災と大津波および福島原発事故等は、未曾有の大災害をもたらしました。この大震災と大津波は、日本の歴史の中において、1000年に1回の確率との科学者のデータが示されました。それほど、M(マグニチュード)9.0という地震の規模が大きかったとのことです。本当に、数万人に及ぶ犠牲者・行方不明者が出てしまったことは、本当に残念なことであり、ここに改めて哀悼の意を表します。さらに数10万人を超える被災者の方々にも、慎んでお見舞い申し上げます。友の会の皆様のご親族の方やお知り合いの方にも、きっと被災された方もいらっしゃったことでしょう。私ども、大学や病院教職員・学生・大学院生および卒業生の中にも、被災された方や被災されたご家族・親族が多くいらっしゃいました。改めてお見舞い申し上げますとともに、被災者の方々の1日も早い復旧・復興を願うばかりです。また、幸いにも、こうして元気でいられて、生きている歓びも改めて感じる今日この頃でもあります。

 また、引き続いて発生しました福島第一原発事故と放射能汚染の問題は、とても深刻なものであり、いつ収拾されるか、後々までに長びく大変な事故です。直接避難生活を余儀なくされ、全国各地にに過されていらっしゃる方々の問題は勿論のこと、電力不足・エネルギー問題、食糧問題をも含めて、日本経済の沈下に及んでいて、日本列島全体に極めて暗い影を落としています。かなり、時間がかかりましょうが、1日も早く、日本が元通りになり元気になるように、皆で頑張って行くより仕方ありません。

 

3.今回の大震災に学ぶウイルソン病とその治療薬備蓄について

 

 思い出すのは、約15年前に発生した阪神淡路大震災の際に、私の知っているウイルソン病の方が数名いらっしゃいました。その中で、ひとりの女性の患者さんは、当時まだ承認されていない塩酸トリエンンチン(D−ペニシラミンの副作用にて使用することが必要な患者さん)を私のところから治験という形で提供してたのです。震災数日後、心配でいていたのですが、ご本人から直接私の所に電話が入りました。「先生、私は無事で元気です。塩酸トリエンチンも沢山貯めていましたので、まだまだ十分にあります。どうぞ、心配しないで下さい」というような内容でした。この嬉しい知らせにて、私自身心から嬉しさが湧み上げてくるものがあり、その感動は生涯忘れることができません。本当に良かったと安心しました。

 このとき、やはり、お薬は少なくとも2週間以上、できれば1ヶ月分くらいの余備を保存しておかなければならないことの重要性を再確認させられたものでした。

 事実、今回の東日本大震災において、交通手段や運搬手段等が破壊され、諸物資の流通が困難となり、回復するのに1ヶ月以上(道路、鉄道など)もかかりました。また、製薬会社の工場、医療機具・機器・備品生産工場などの被災もあり、一部の医薬品の生産中止、医薬品全体の品不足や運搬困難、医療機器・備品などの不足や流通破綻などを生じました。したがいまして、医院・診療所あるいは病院といった医療機関における医薬品の品不足、長期処方不能、注射器・点滴セットなど日常の医療必要品不足と入手困難などがあり、医療の実践に困難を極めたという新聞・テレビ報道がなされました。また、私の知人の医院や病院の医師たちから、医薬品や医療備品の不足について何度も連絡があり、至急補充してほしいとの要請があったりしました。可能な限り、応援できるように致しましたが、十分とは言えませんでした。

 

4.ウイルソン病治療薬1ヶ月分備蓄のすすめ

 

 この度の東日本大震災、あるいは阪神淡路大震災の教訓から、天変地異の天災あるいは福島第一原発事故等の人災を含めて、いつ、どこで、何が起きるかも知れません。昔から日本の古い諺ですが、「備えあれば、憂いなし」という格言があります。ウイルソン病治療薬は、約1ヶ月分くらいの常備・備蓄をおすすめいたします。ウイルソン病治療薬は、毎日服用し続けるものであり、決してどんなことがあろうとも怠薬はいけません。塩酸トリエンチン等の吸湿性のある薬剤においては、吸湿を避けるような保存方法も知っておくとよいでしょう。(塩酸トリエンチンは吸湿性がありますが、湿り気が出ても薬効に変化はありませんので心配しないで下さい。ただし、吸湿した水分中に金属が含まれていますと薬の色が変化・キレートを作ってしまうので薬効は消失します。色の変化には注意して下さい)

 

2011(平成23)年8月吉日

 

 

追記:次号は『ウイルソン病100年』を迎える2012年となりますので、100年の歴史を振り返り、明日・将来への展望を書きたいと思います。

 

『友の会』について思うこと

 

 ウイルソン病友の会顧問医師

        東邦大学長・名誉教授  

 青木 継稔

 

 友の会会員の皆様、お元気ですか。どうぞ、明るく、楽しい人生を謳歌して下さい。いつもいつも申し上げることですが、お薬は、忘れず、正しく服用して下さいね。怠薬しないで下さい。怠薬が続いたために、症状の出現や悪化してしまい、私ども病院を訪れる患者さんがあとを断ちません。自分は大丈夫と変な自信があって、怠薬してしまう例がとても多く、致死的に陥いられる方も稀ではありません。どうぞ、『薬を忘れず、正しく服用』をモットーに、日々励んで下されば幸いです。

今回は、『友の会』のことについて思いつくままに、2〜3つの事を書きたいと思いますので、気楽にお読み下さい。また、『友の会』として行動を起こして欲しいお願いも記しましたので、ご検討下されば幸いです。

 

 1.色々な『友の会』に出席して

 

 『友の会』に出席して最大の楽しみは、多くの皆様にお逢いできることです。何十年も診療させていただいてきた患者さんとそのご家族、この数年あるいはそれ以前に新しく診療あるいは電話やお手紙にて相談させていただいた患者さんとそのご家族、『友の会』にて知り合った患者さんとそのご家族、それぞれ様々な形でお知り合いになれた方々とお逢いできる喜びがあります。また、新たに初めてお逢いする方々もいらっしゃいます。

 とくに、気懸りな特別な想いの患者さんとその家族も多くいらっしゃいます。重篤な神経症状が残ってしまった方々や、肝硬変が進行して慢性肝不全状態(肝移植しないで)から回復された方々は、この1年あるいは数年の間にどのようになられたのか。少しずつ改善されて、お元気になられている御姿に接してとても感激致します。例えば、大阪のM君は、身体全体が棒のようになって歩くことすらできなかったのに、言葉も出せなかったのに、10年近く経って久し振りにお逢いしたら、何と歩けるではないか、少し言葉が返ってくるではないか、こんな時の感動は私どもしか感じられないものと思います。青森のO君も入院していたときは車椅子であったが、ある時ひとりで飛行機に乗って東京での『友の会』に参加してくれたときは、目を疑うほど信じられない事実を夢のように思ったことを生涯忘れることはできません。金沢のK子さん、中学生の発症後間もないころに私ども東京の大学病院に入院したのですが、成人となられたある日に『友の会』に来られ、歩くことも話すこともままならなかったのに、ほとんど普通の美しい女性の姿でした。そのほか、あの慢性肝不全にて肝移植を検討したのですが、不幸にも肝提供者と不一致して肝移植を諦めた方が、姑息的治療とウイルソン病に対する治療により、見事に復活したのです。例を挙げれば枚挙をいといませんが、本当に感動です。昨年5月9日()の「友の会、全国大会(東邦大学医療センター大橋病院)」、10月31日()「友の会、関西支部会(大阪医科大学:小児科玉井浩教授のお世話による)」は、多くの『友の会会員とそのご家族』が参加され、意見交換会や参加教員との質疑応答などが行われ、意義ある会であり盛況でした。

 もう一つ、昨年11月13日()に公務にて鹿児島を訪れる機会がありました。鹿児島市在住の厚地邦彦君(友の会会員)とご母堂様のお世話にて、九州在住の『友の会』の方々およびご家族に集まっていただきました。厚地君は、パソコンに強く、インターネットにて皆様に呼びかけてくれたのです。5家族、10数名が厚地君の見つけてくれたホテル貸会議室の一室に集まり、有意義な懇談をさせて頂きました。厚地君とお母様および出席者の皆様に感謝します(写真は鹿児島での皆様との集合写真です)。九州における会は、今までに鹿児島、福岡、熊本にて開催しました。鹿児島は今回で2回目でした。

 

 2.成育医療研究班「先天代謝異常症の診断ネットワークを介した長期予後

      追跡システムの構築」の登録へのお願い

 

 成育医療研究班の上記登録システムが完成して、「ウイルソン病患者登録」も参加していて6年前にスタートしました。国立成育医療センターが昨年(2010)4月に独立行政法人となったために、この4月から新たな形として再スタートします。今まで研究班の責任者でした東北大学大学院医学系研究科・遺伝子学分野(東北大学病院遺伝科)松原洋一教授から成育医療センター臨床検査部長・奥山虎之先生(小児科学、臨床遺伝学他)に移行する予定のようです。ウイルソン病につきましては、東邦大学医療センター・清水教一准教授が私に代って責任者(研究協力者)となりました。私自身もお手伝いいたします。患者登録されるためには、色々な書類に記入していただく項目が多くありますので、面倒なことと存じますが是非よろしくお願いします。

 ()何故登録する必要があるのか

 

 直接的なメリットはほとんどないかも知れませんが、間接的には大きなメリットがあります。友の会会長の小峰恵子さんは良くわかって下さっていると思いますが、以下のようなことがあります。

 @厚生労働省の母子保健課等との話し合いの中で、ウイルソン病早期発見早期治療のためのスクリーニングの公的資金負担(全国的)をお願いしたときのことを記します。厚生省のほとんどの人々は、ウイルソン病について全く知りません。どんな病気か、治療できるのか、治療しないとどうなるか、遺伝病なのか、どのくらいの頻度か、治療した場合と治療しない場合と具体的な生命予後の客観的データを示して欲しいなど毎回聞かれます。答えられることもありますが、客観的なエビデンス(証拠)は実は乏しいことに気づきます。例えば、日本にウイルソン病患者さんは何人いますか、頻度は出生10万人当り何人ぐらいですか、と問われても正確なデータはありません。発症年齢の分布はどうですか、発症年齢のピークは何歳ですか、どういう症状で発症あるいは発見されるかの年齢分布とかその頻度はどうですか、なども具体的には不明です。

 A客観的なデータを知るためには、患者さんやその家族のご協力、各地域の主治医の先生のご協力、全体をまとめる方々、データを個人情報の保護・守秘義務をしながらコンピューター等に入力・保存やデータ解析や集計をする人々などの有機的な連携が不可欠です。また、これらの作業に対する費用の負担も大きく、公的な研究費の継続的な助成が必要となります。さらに、客観的な予後(将来どのようになっていくか、生命的な予後も含めて)を知るためには何十年の追跡調査が必要です。

 Bこれらの客観的データは、治療薬や治療法の改善、新しい治療薬に対する治験参加や治験成績の評価、経済的支援、患者さんや家族への医療・福祉サービスへの色々な支援、など幅広く応用される可能性が大きいのです。

 C国際比較、行政的な色々なサービスや支援体制を確立することなどにも必要です。

 

 ()登録の義務はありませんが、ご協力をお願いしたいと思います

 

 登録するためには、個人情報が漏れたりしないか、私的に流用されないか、登録が面倒である、主治医に書類を書いてもらうことになり頼みづらい(気分を害されるかと心配)、などの声をお聞きします。

 @個人情報のセキュリティ(安全性)は保証されています。成育医療センターのコンピューター室にて保管・管理され、専門官がいます。データの解析・処理等は公衆衛生・疫学あるいは医療情報・病院管理学の専門官が取り扱っていますので安心して下さい。

 A登録したためのデメリット

 特別なデメリットはないと思いますが、直接的なメリットも余り感じられないかも知れません。登録に関する書類を書いたり、入力したり、主治医に記載をお願いしたりすることの負担はデメリットかもしれません。

 

 ()登録者が多いほどデータの信頼性が高くなることを知り、会員の増加を図る

 

 日本におけるウイルソン病患者さんの実数を把握することができていませが、推定では1000人以上、数千人と思っています。友の会会員数は約300名弱でしょうか。何とか500名以上に増えるといいと思います。

 @現在の登録者数は約100名です。清水教一先生が中心になって集計してますが、実際に登録入力されている方は、まだ少ないので是非ご協力下さい。よろしくお願いします。

 A約100名の登録数でも、データの解析は可能であり学問的にも貴重です。ご協力下さった方々に深く感謝しています。

 

 最後になりましたが、2012(来年)は、ウイルソンが『ウイルソン病』とい疾患単位を発表して100年を迎えます。温故知新という言葉があります。ウイルソン病100年の歴史を振り返り、多くの研究者や臨床家の努力により、本症の病因・病態が明らかになり、遺伝形式や責任遺伝子の発見、治療法の確立、診断法や早期発見法の確立など目ざましい発展を遂げて参りました。改めて、ウイルソン病を認識して、治療可能な疾患としてのありがたさに感謝し、怠薬しないように自覚し、生命の輝きを大切に力強く生きて下さることを祈念します。

 

                                以上

                    2011(平成23)年2月記

                               

                 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真:平成22年11月22日鹿児島市内にて。

    厚地君(前列右側)および当日ご参加の九州在住の友の会の方々

    とともに

 

 

 

 

 

 

 

  ウイルソン病と肝移植

― 新しい臓器移植法施行 ―

 

 ウイルソン病友の会顧問医師

 ウイルソン病研究会代表幹事

                   東邦大学長

  青木 継稔

 

 はじめに

 

ウイルソン病友の会の皆様、お元気でいらっしゃいますか。今年は異常気象の影響にて、わが国では猛暑日が長く続いた夏でしたが、お元気にお過しのこととお慶び申し上げます。

 いつも申し上げることですが、お薬の飲み忘れや怠薬はありませんか。色々と申し上げても、怠薬が続いて症状が発現したり、増悪する方が後を絶ちません。また、折角、お薬を毎日服用しているのに、間違った服用により、症状を悪化させることがあります。銅キレート薬(メタルカプターゼ:D−ペニシラミン、メタライト:トリエン・塩酸トリエンチン)は、食後に服用しても食物中に含まれる銅と消化管内にてキレート結合してしまい、吸収されず体内の蓄積銅を除銅できなくなってしまうため、効果が失くなってしまうのです。案外、銅キレート薬を空腹時あるいは食前1時間前に服用せずに、食後に服用している患者(患児)さんが多いことに驚いています。お薬を正しく服用して下さい。また、毎日忘れずに飲んで下さい。そうすれば、あなたの寿命を全うすることが可能となります。怠薬すれば、どんどんと寿命が短くなることを肝に銘じることです。例外はありません。自分は大丈夫と思っているとすれば大間違いです。

 今年の夏に、わが国における臓器移植法が新しく改訂され(平成22719日)、小児の臓器移植も可能になりました。ウイルソン病は、肝移植の適応のある例がときに認められ、実際に肝移植により死を免れることが知られています。今回は、臓器移植のことを中心に述べたいと思います。

 

 T、臓器移植に関する話題

 

 わが国における臓器移植の提供者は、世界各国と比較して極めて低いレベルにあります。したがって、外国に行って臓器移植を受ける日本人が多く国際的な批判が高まり、外国から日本人は日本人から臓器移植を受けるべきであると

拒否されたり、国際会議においても国内移植を原則とし、外国での移植は好ましくないという見解が示されています。また、外国における臓器売買の問題も大きくクローズアップされ、禁止される方向にあります。

 臓器移植に対するわが国の考え方や対応は多くの賛否両論の意見があり、世界的に大きく遅れています。わが国における今回の新しい臓器移植法の改訂は、脳死判定の問題、小児の問題、意思表示の問題と家族の同意の問題など大きく前進した内容になりましたが、まだまだ多くの問題点が包含されています。ただし、今回の改訂により脳死による臓器移植の促進が大いに期待されています。

 

 U、ウイルソン病と肝移植

 

 ウイルソン病に罹患した患者(患児)さんの中には、肝移植によってのみ救命し得る例が5〜7%存在します。ほとんどの症例が緊急に肝移植しないと救命できないために、脳死患者さんを待って、また順番を待って肝臓の提供を受けることはほとんど不可能です。したがって、ウイルソン病の肝移植は、腎移植と同様に生体肝移植が行われます。家族内肝提供者の尊い善意によって実施されることがほとんどです。

 

1.ウイルソン病の肝移植の適応

 

ウイルソン病によって肝移植の適応となる例は、それほど多くはありませんが、肝移植をしないと死の危険が迫ると判断された場合は積極的に肝移植を推進することになります。専門的な立場から色々な意見があると思います。ウイルソン病の肝移植適応の明確な基準は統一されたものはありませんが、多くの研究者・専門家のほぼ一致した見解はあります。

以下に示す見解は、多くの専門家の見解と私個人の見解を併せたものを示します。

 

() 劇症肝炎型ウイルソン病

症状が出るまでは、全く普通の生活を送っていた子供(5〜16歳:10〜12歳に多い)が、感冒罹患後あるいは全く原因不明にて、急激に易疲労感、黄疸、意識障害などにて発病する症例があります。劇症肝炎・急性肝不全・肝性昏睡(腹部型ウイルソン病とも言われます)に陥ってしまうのです。日本におけるウイルソン病患者発生数は、推定30〜35例/年と考えられ、そのうち約5〜6%(年間2〜3例)が劇症肝炎型といわれます。血漿交換や交換輸血

および銅キレート薬療法などにより、肝不全が回復する例もありますが、肝移

植の適応となり、緊急な対応が求められます。肝移植するまでの間は、血漿交換や交換輸血などの対症療法を行い、さらなる進行を防ぐための治療を継続します。私ども教室では、3例の肝移植を経験しました。いずれも肝移植は成功しています。5歳10ヶ月児劇症肝炎例を交換輸血を繰り返すことにより肝移植せずに救命し得た症例を経験しています。

肝移植療法が導入される前に、私が経験した5例あるいはそれ以上の劇症肝炎型ウイルソン病小児例はすべて死亡しています。

5年間の怠薬にて劇症肝炎型を急激に発症した30歳女性例は、肝移植療法がまだ実施されていない時代の経験であり、あらゆる治療も効を奏せずに亡くなりました。肝移植を施行していれば救命できたかも知れません。

 

() 慢性肝不全状態のウイルソン病症例

肝硬変が進行してウイルソン病と診断され、銅キレート薬治療および慢性肝不全の治療を数ヵ月あるいはそれ以上、実施しても慢性肝不全が進行したり、治療効果が望めないような症例を稀でありますが経験することがあります。もう一つは、患者さんの怠薬により低蛋白血症、浮腫、腹水、黄疸など慢性肝不全を来たして来院される症例は比較的多いのです。怠薬による慢性肝不全例は、30〜40歳代の中年層に比較的多く、銅キレート薬や亜鉛薬によるウイルソン病に対する治療および肝不全に対するあらゆる対症療法を根気よく長期に治療を継続することにより徐々に慢性肝不全状態から脱出することができる症例を多く経験しています。どうしても改善せずに徐々に悪化する例が稀にあります。

慢性肝不全がどうしても改善しない例が肝移植の適応となります。肝の超音波検査、肝CT、MRI検査などにて肝硬変が強く、肝萎縮の存在する場合は、慢性肝不全状態から脱却することが困難であり、肝移植の適応になると思います。怠薬などにより慢性肝不全状態の患者さんを私自身10数例の経験をしていますが全例肝移植せずに回復していますので、私自身は慢性肝不全により肝移植した例の経験はありません。

 

() その他

ウイルソン病の重症例の色々な状況によって肝移植を施行した報告がありますが、多いものではありません。したがって、上記の()()の場合が肝移植の適応として、多くの研究者・専門家に共通の認識であると考えます。

 

 

 

2.肝移植した場合のその後について

 

() ウイルソン病に対する治療

生体肝移植は家族内からの肝提供者からのものであり。保因者肝である可能性が極めて高いと考えられます。保因者肝が移植されたとしても、銅キレート薬や亜鉛薬の投与によるウイルソン病の治療の必要はないとされます。したがって、ウイルソン病治療から解放されますが、生涯にわたっての銅代謝を含めた管理を定期的に行う必要はあると考えます。

 

() 拒絶反応防止のための高価な免疫抑制剤を生涯にわたって服用し続ける必要性

生体肝移植によって救命し得たウイルソン病患児(患者)さんは、上記のウイルソン病自体の治療の必要はないのですが、移植肝の拒絶反応を防止するために、種々の免疫抑制剤の投与やそれらの血中濃度管理および副作用のチェックを定期的に受けなければなりません。免疫抑制剤は、銅キレート薬や亜鉛薬よりも高価であり、生涯継続投与の必要があることもよく知っておくべきです。

可能な限り肝移植をしない方がよいのです。

 

 

おわりに

 

今回は、わが国おける新しい臓器移植法の改訂にちなんで、ウイルソン病と肝移植について言及しました。

ウイルソン病の肝移植の適応は、可能な限り安易に決断しないで緊急に救命しなければならない場合に限る必要があると思います。何故なら、肝移植に伴う諸問題、経済的負担、拒絶反応防止のための免疫抑制剤の生涯治療の必要性の問題などを認識の上での肝移植の適応を知っておくべきと思います。

劇症肝炎型ウイルソン病発症予防のために、ウイルソン病マス・スクリーニングの実施や早期発見・早期治療の必要性を徹底しなければなりません。もう一つは、絶対に怠薬しないことです。                

( 以上 )

 

2010(平成22)年820

   

 

 

合併症に関する相談および医療費助成のこと

                        青木 継稔

                 (ウイルソン病友の会顧問、東邦大学長)

 

 ウイルソン病友の会の皆様、お元気に毎日をお過ごしのこととお慶び申し上げます。色々とつらいことも多いでしょうが、楽しいこと、嬉しいことも必ずありますので、頑張って、強く明るく正しく生きていきましょう。

 今日は、この数年間のうちに私の許にご相談があったことを中心に、つれづれに記してみたいと思います。また、医療費のことについても触れてみたいと思います。

 

1.突然の吐血   ― 食道静脈瘤の話 ―

 32歳となった男性。会社の帰宅途中に路上で突然吐血し驚天、通りがかりの人に救急車を呼んでもらいました。待っている中に再び吐血があり、顔色が蒼白となり気分がとても悪くなり立っていられなくなったとのことです。救急車が来て大きな病院に運ばれ、輸血などを受け、検査にて食道静脈瘤(下部)破裂ということにて直ちに手術的処置をしてもらい、助けていただいたと後日、奥様から私の方へ電話がありました。14歳の時に、初めてウイルソン病(肝型)と私の病院で確定診断をし、D‐ペニシラミン療法を開始した方です。その後は、生家(地方都市)の近くの消化器内科にて治療を受け、1年に1回位私の病院に来てくれていたのですが、大学入学後は地元の病院のみの診療でした。就職、そして結婚と順調に経過していました。結婚式のときには、私はお招きいただき奥様とも、ご主人の病気についてもお話をさせて頂きました。2人のお子様にも恵まれたのですが、この数年ぐらい怠薬(くすりを服用しないこと)していたとのことでした。肝硬変も進行し、脾腫もかなり大きくなっていました。

 食道静脈瘤は、ウイルソン病性肝硬変(ウイルソン病でない肝硬変も同じ)の進行とともに出現します。脾腫(脾臓が大きくなる)を伴うことが多く、巨大脾腫となる人もいます。食道は、食べ物が通過し胃に至るのですが、食べ物が刺激となって食道静脈瘤があると大量〜少量の様々な出血を招きます。一挙に大量出血すると、致死的となることが稀にあります。少量のときは、胃の方にジワジワと流れて気付かないことがあります。この場合、出血性貧血となり、血液検査にて鉄欠乏性貧血所見を生じることが多いのです。

 食道静脈瘤の予防は、怠薬を絶対にしないことです。きちんと治療薬を服用し続けていれば、食道静脈瘤に発展することはほとんどありません。数年に1回ぐらい内視鏡検査を受けるとよいでしょう。食道静脈瘤があり、その程度の強弱によって、内視鏡検査の受診間隔が決まります。強い食道静脈瘤の存在を指摘された時は、クリッピングなどの処置を受けてつぶしてしておくことも必要です。消化器内科による診療が適切ですので、主治医と消化器内科の連携が重要です。

 

2.腹水、下肢のむくみ(浮腫) ― 慢性肝不全 ―

 46歳女性。最近、身体がだるく仕事への集中力に欠け、下肢がむくみ、お腹が張る感じがする、ということで相談に来ました。3050歳のウイルソン病の方で男女を問わず、このような訴えの方に比較的多く出会います。すべての方が、1年以上数年あるいはそれ以上の怠薬により生じてきたのです。白眼に黄疸を認めることもあります。診察してみますと、腹水をかなりの量認め、肝臓を硬く触れる人もいますが全く触れない人が多いです。脾腫は必発ですが、大小様々です。腹部超音波や腹部CT検査にて肝硬変パターンです。下肢に浮腫があり、軽重様々です。血液生化学的検査にて、血清総蛋白質量やアルブミン値が基準値(正常値)以下のことが多いです。γ‐GTP値は上昇しますが、肝硬変が進み血清ASTALT値は上昇していないことが多いです。ヘパプラスチンテスト、プロトロンビン時間および血液凝固因子などが著しく低下しています。膠質反応のZTTTTTは上昇します。肝臓の大きさ(腹部CTやヘリカルCTという検査にて)が身長、体重からみて正常者の大きさより大きいときは、ウイルソン病治療を行いながら、肝を保護したり欠乏物質を補充したりして根気よく気長に治療することにより、この慢性肝不全状況から脱却できます。私自身、多くの患者さんと遭遇して軽快したという経験を豊富に持っています。一方、肝臓の大きさがどうやら小さく萎縮しているような例は、肝移植の適応となります。姑息的な治療のみではもはや、延命を期待できないのです。肝移植というと、大変なことです。肝提供者(ドナー)がいるかどうか、ドナーとの適合性があるかどうか、ドナーへの肉体的・精神的苦痛を与えることの問題、莫大な費用、移植後の免疫抑制療法と費用負担など、複雑な問題が絡み合って成功するのだと思います。

 一番は怠薬をしないことです。怠薬しなければこのようになることはほとんどありません。

 

3.血小板数が減少していると言われた。

@ 12歳男子。肝機能障害および脾腫があり、血小板数が著しく減少していた。精密検査の結果、ウイルソン病と確定診断され、肝硬変および肝硬変に伴う脾腫、さらに脾腫による血小板破壊の亢進・骨髄による血小板生成能の低下による血小板減少といわれました。

 

A 17歳女子。9歳のとき、肝機能障害がありウイルソン病と判明し、D‐ペニシラミン(メタルカプターゼ)を服用し始めました。順調に経過し、肝障害も消失し超音波検査や腹部CT検査にても肝硬変の所見なく、脾腫も軽度といわれた。定期的に血液検査も受けていましたが、この数ヵ月血小板が減少していると言われて、最近は5/m㎥ぐらいになっているとのことです。骨髄検査を実施して、恐らくD‐ペニシラミンによる骨髄血小板生成の抑制だろうと言われました。

 ウイルソン病患者さんに、血小板減少を合併することは比較的よく知られています。原因は色々と考えられます。ウイルソン病自体による血小板減少は、骨髄において血小板生成が障害されている場合と、脾腫による血小板破壊の亢進の2つがあります。私は、血小板数が5万までは大丈夫と考えて、特別に血小板の増加を図るような治療をしていません。末梢血血小板数3〜5万は、注意しながら慎重に経過をみます。血小板数2〜3万以下のときは、運動を禁じるとともに血小板の増加を試みる治療を考えます(緊急時の血小板輸注、血小板増強剤投与など)。ウイルソン病に対する除銅療法の継続により改善することが多いと思いますが、なかなか難しい問題であり、頭を痛めます。

 D‐ペニシラミン(メタルカプターゼ)投与中に、血小板減少という副作用をみることがあります。私は、末梢血血小板数が3万までは、D‐ペニシラミンを使い続けます。末梢血血小板数の正常値(基準値)は、1530万であり、5万以下は出血し易くなります。とくに、3万以下は大量出血の危険があり、外傷や手術時に要注意です。末梢血血小板数3万以下になったら、塩酸トリエンチン(メタライト‐250)あるいは酢酸亜鉛(ノベルジン)に変更してみます。塩酸トリエンチンもD‐ペニシラミンほどではないですが、骨髄抑制による血小板減少を副作用としてみることが非常に稀ですが、あり得ます。D‐ペニシラミンを中止して、他の治療薬に変更しても、血小板減少がすぐに回復するものではありません。気長に、出血傾向に注意しながら比較的長期(数ヵ月〜数年間)にわたって回復を待つ以外にはありません。

 以上3つのことは、比較的多く経験することです。とくに、血小板減少の問題は別として、1の突然の吐血(食道静脈瘤の話)、2、腹水・下肢のむくみ(浮腫)― 慢性肝不全 ― の事例は、いずれも怠薬が大きく影響しています。とにかく、怠薬を絶対にしないようにして下さい。よろしくお願いします。

 

4.医療費の件 

 去る2009214日(土)の夕方に、北九州市小倉において産業医科大学第3内科学(消化器病学)講座の教授に、原田大先生(久留米大学医学部消化器内科)が就任され、その祝賀会にお招きを受けてお祝いに行ってきました。原田教授は、消化器内科、とくに肝臓病の専門家であり、内科系の医師として数少ないウイルソン病の専門家でもあります。今後は、教授としてウイルソン病の臨床や研究にご活躍が期待され、ウイルソン病の患者さんにとっても心強い専門家となられることと存じます。

 原田教授は、お祝いの席上、私に「成人となったウイルソン病患者さんへの医療費の援助がない。何とか、慢性特定疾患とか難病指定医療費助成の道を切り拓いて欲しい。」との要望を出されました。原田教授のご心配は、私ども、この10数年間にわたって厚生労働省や各都道府県の一部に働きかけ、運動して参りましたが、未だ実っていません。また、ウイルソン病友の会でも小峰恵子会長の下に色々と運動を展開していらっしゃることと存じますが、実現に至っていないのが現状です。なかなか国家財政が窮乏し、さらに各都道府県市町村も財政状況が極めて悪いために、様々な医療費援助を打ち切ったりしているようです。しかし、限られた疾患ですが、新しく助成が受けられる仕組みを獲得したものもあります(平成19年度にムコ多糖症などのライソソーム病が認可されました)。地道に、継続して厚生労働省や各自治体に働きかけて行く以外に道はありません。ウイルソン病は、20歳までは厚生労働省の小児慢性特定疾患事業により医療費の援助が受けられますが、20歳を越えますと、東京都のみが医療援助を受ける制度があります。東京都以外の自治体では、私の知っている限りウイルソン病の医療費助成はないのではないでしょうか。

 ウイルソン病友の会のような患者さんとそのご家族の会が結束して、よく調査をして根気よく各自治体にアタックして行くことが肝要と思います。私どもも応援します。もう一度、足もとを固めて運動を見直して前進して下さい。必ずや実る日が来ると思います。産業医科大学第3内科学の原田教授の熱きメッセージをお伝えして、もう一度原点に戻って医療費のことを検討し、具体的に運動を展開することを皆さんで行動して欲しいと思います。

 

                  2009(平成21)年225

      

 

 

 

亜鉛薬 「ノベルジンカプセル」 について

                                                                青木 継稔

                                                             (東邦大学長、日本ウイルソン病研究会代表世話人)

 

 皆様、ご承知のごとく、平成202008)年4月に、ウイルソン病の新しい治療薬として亜鉛薬(ノベルジンカプセル)が薬価収載・保険適用となり新発売されました(ノーベルファーマ社製造、アルフレッサファーマ社発売)。すでに、亜鉛薬を使用されていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

 D−ペニシラミン(メタルカプターゼ)や塩酸トリエンチン(メタライト−250)を使用されていて、何ら問題のない方々は、そのまま今まで通りの治療でよろしいと存じます。

 亜鉛薬(ノベルジン)を新しく使用される方は、@1年間は2週間毎の処方が義務づけられていますので、ご面倒でも2週間毎に通院して診察を受けて、処方箋を貰って下さい(発売から1年経過しますと、長期処方が可能となります)、Aノベルジン使用の方は、全例市販後調査が厚生労働省から義務づけられていますので、主治医の指示に従って検査を受けて下さい、ということを知っておいて欲しいのです。この@とAは、新しく発売された治療薬の安全性についての厳しい基準に基づくものですので、どうぞ、ご了承ください。

 

 この亜鉛薬の承認により、ウイルソン病治療の幅が大きく広がりました。ありがたいことと感謝致しましょう。

 亜鉛薬(ノベルジン)の新発売を記念して、去る平成20512日(月)15001700、ノーベルファーマとアルフレッサファーマ両社共催によるプレス発表が東京・大手町の経団連会館において行われました。この発表会には、私とウイルソン病友の会会長の小峰恵子さんとが出席して、記者を中心にお話をさせていただきました。このプレス発表により、色々な新聞や雑誌にウイルソン病のこと、ノベルジンのことや友の会のことなどが紹介されました。きっと、記事をお読みになった方も多くいらっしゃることと存じます。改めて、ノーベルファーマとアルフレッサファーマの方々に御礼申し上げたく存じます。

以上

                      

2008(平成20)年8月

 

 

                                  ウイルソン病患者さんやそのご家族の

                      『心の悩み』などの問題解決について

                                                     青木 継稔

                                                                                                       (東邦大学長、ウイルソン病友の会顧問医師)

 

 友の会の皆様、毎日お元気のこととお慶び申し上げます。一度きりの人生ですから、どうぞ、力の限り精一杯頑張って、命を輝かせて強く明るく生きて生きましょう。

 

1、出会い、愛と勇気が人を成長させる

 

生きていくことは、決して楽な道ではありません。嬉しいこと、悲しいこと、つらいこと、面白くないこと、楽しいこと、感動したこと、素晴しいと思うことなど色々なことがあります。両親、兄弟姉妹、祖父母、子ども、孫、親戚の人々、お友達、クラスメート、先生、ご近所の方々、地域の皆様、病院の医師や看護師あるいは医療スタッフの方々、薬剤師など、多くの人々と出会い、自分自身がいかに多くの方々に支えられて、生きていることを実感し、周囲に感謝しなければなりません。とくに、身近な方々とは色々な形の深い愛情によって結ばれて、支え合っていることは、最も大切な絆であり、勇気と生きる力の源になっています。

 この世に生まれて、とどまることなく人は心身の成長と発達を遂げます。家庭、保育園・幼稚園、学校、地域社会、職場と人生の幅と社会が拡がり、多くの人々と出会い、これらの人々との交わりの中で、私達は人間として成長と発達を遂げていきます。人との交わりが少なかったり、人とのコミュニケーションが上手くできなかったりすることは、とくに心の成長が妨げられたりもします。相互信頼と相互理解、人に対する優しさや気遣いがあって、コミュニケーションが成立すると思います。人との交わりの中において、しばしば私達は嫌なこと、困難な問題に直面して多くの悩みを抱え込んだりしますが、多くは努力や忍耐あるいは相手を思いやることなどにて、諸問題を克服して精神的に成長して強くなっていきます。また、成長と発達のなかにおいて、それぞれ努力して教育されていきます。

 

 

2、ウイルソン病との出会いと悩み

 

 成長と発達のある時期に、ウイルソン病という予期せぬ病気を宣告されてしまったあなた方の驚きと受容できないショックは、きっと私どもの想像を遥かに絶するものがあったことと推測します。病気の意味が理解できないほどの小児期に発見された方々は、思春期、青春期、青年期への成長の過程で「自分がどうしてウイルソン病なのか。ウイルソン病とはどんな病気なのか。どうして、毎日薬を服用しなければならないのか。」色々と疑問が湧き、悩み、怒り、拒否、爆発などがこみ上げてきたことでしょう。自分がウイルソン病であることを受容することも、とても大変なことだと思います。受容をしようと思いながらも、逃れようと逃避的な行動をとることもしばしばではないでしょうか。ウイルソン病が遺伝的な病気であると聞かされて、両親を恨む気持ちも芽生えたこともあったのではないでしょうか。なかなか受容できず、診療を拒否して病院に行かなかったり、薬を服用しなくなったりしたことも、きっと多かったことでしょう。思春期から青年期にかけて、ご両親とも上手くいかなかったり、暴言を吐いて抵抗したことも、きっとあったことでしょう。

 実際に、同じウイルソン病であっても人によっては、ウイルソン病による精神的障害や性格的変化あるいは知的障害をみることがあります。このように、明らかに精神的障害や異常を認めた場合は、精神科医にも診療に加わっていただくケースも比較的多いです。

 小児期に、ウイルソン病と診断されたお子様を持つ親御さんもまた、大きな精神的打撃を受け、色々な悩みが沢山発生してきます。ウイルソン病の原因、どんな症状を示しどこが障害されるか、銅摂取制限食の必要性と毎日の実践、薬の飲み方、通院間隔など、説明を受けて理解したにもかかわらず、受容に至るまでの精神的・心理的負担やその推移など、長い時間を要したことでしょう。遺伝的疾患であるが、治療が可能であること、無症状か症状が軽いうちは発症予防が可能であること、などに多少の安堵感を持たれ、ほっとされたことあったことと存じます。しかし、自分の子どもがウイルソン病であることが判明したその日から、新たな親と子の争いや葛藤の火種になってしまうこともあり得るのです。事実、生徒会長やクラスリーダーであった女子中学生であった娘が、ウイルソン病ということが判明してから、荒れだして、不登校となったり、男の子や男性に走ったりして、俗にいう「不良少女」になってしまったという例を何例か経験しました。また、ある男の子も不登校になり、いつの間にか悪い友達の仲間が出来てシンナーから麻薬中毒へと最悪のパターンとなり、今だに脱却できない状況におちいっています。この男の子は、ウイルソン病を持っていなくても、このようになっていったのかも知れませんが、私自身、小さい頃から診てきたこともあり、ご両親もお気の毒ですが、ご本人の意志薄弱は面を拭えませんが、私の力の及ばない限界を感じ残念で仕方ありません。いつの日にか、立ち直ってくれる日を期待するとともに、ウイルソン病治療薬の飲み忘れによって命を失わないで欲しいと願うばかりです。これらは、ほんの一例に過ぎません。私自身の経験だけでも、心配な例はまだまだ多くありました。悪い例を書きましたが、逆に、とっても良い例も沢山経験しています。ウイルソン病であることによって、医師、看護師、スチュワーデスなどを目指して見事に目的を達成されたり、学校の先生、栄養士、コンピューター技師、グラフィックデザイナーなどになられたりした方もいます。また、色々な職場に就職されて、多くの方が輝いて活躍されています。

 

3、悩みや疑問をしまっておかずに皆で共有しましょう。どんなことでも相談して下さい。

 

 ウイルソン病患児が成人になったり、青春期から成人期に初めてウイルソン病と診断された方々、あるいは長期にわたってウイルソン病患者さんとして治療を継続されている方々など、色々な時に色々な悩みが新たに加わってきます。就職の問題、生命保険加入の問題、小児慢性特定疾患事業による診療・治療補助打切りによる医療費負担の問題、結婚の問題、妊娠・出産や子どもの問題、職場の人間関係など人とのコミュニケーションのトラブルや悩み、などは、友の会の討論の中でもいつも話題となってきました。さらに、ウイルソン病の検査や診療上の問題の悩みや疑問点、例えば、血液や尿検査の実施間隔や検査値の結果についての疑問、超音波検査やCTあるいはMRI検査(肝や脳など)、身体的異常や訴えとの関連、治療上の疑問、主治医とのコミュニケーションの悩みや問題などをお持ちの方も少なからずいらっしゃることと思います。医師との関係は、セカンドオピニオン制度がありますので堂々と申し出て下さっても構いません。私のところにお手紙や直接お電話をいただいて、悩みや問題点について相談されることがあります。友の会の方から、「そのことは直接、青木先生の方にお聞きしたらどうか」とアドバイスをいただいたからと直接私の方へ連絡して下さる方も比較的多くいらっしゃいます。

 私自身、可能な限り、皆様のお力になりたいと思って対応させていただいています。十分なお答えになったかどうか、心配したりもしますが、精一杯、ご一緒に考えていきたいという気持を絶えず持ち続けています。

 

 

ウイルソン病友の会の重要な役割のひとつは、会員相互の悩みや疑問について共有しながら経験豊かな方々からの問題解決や一緒に考えるという目的があります。友の会の皆さんは、きっと多くの悩みや疑問をお持ちの方が沢山いらっしゃるのではないかと思います。どうぞ、遠慮なさらず、どんなつまらないと思うことでも、友の会の小峰会長や事務局の方々を通じて、会員相互の連絡の中で解決していくことは大切なことと信じてます。「心の悩み」についてのカウンセリングにもなるのではないでしょうか。勿論、主治医や私どもにも、悩みや疑問をぶっつけて下さっても結構です。ともに考え、ともに問題解決の道を探ることができると思います。ときには、私どもでも解決できないような困難なこともあるかも知れませんが、どうぞご遠慮なく相談して下さい。

 

                       2008(平成20)8

 

 

        

 

                                            亜鉛薬に関してのお知らせ

         ウイルソン病友の会会長 小峰恵子

亜鉛薬が平成164月にノーベルファーマ株式会社により開発着手され、3年以上の治験を経て、今年1月に認可されました。4月に保険適用になり、アルフレッサファーマ株式会社より販売されました。

以下、東邦大学医療センター大橋病院 清水教一先生、ノーベルファーマ社(ノベルジン開発会社)塩村 社長からお知らせいただいた内容を記載します。

☆ 一般名:酢酸亜鉛水和物

☆ 商品名:ノベルジンカプセル25mg、 ノベルジンカプセル50mg

☆ ノベルジンの特徴

   銅吸収阻害        重篤な副作用がない

   主な副作用は消化器症状      厳密な食事制限が緩和

☆ 適応患者

単独で用いる場合は,臨床症状ならびに検査所見が安定している「治療維持期」の患者さん,あるいは家族内検索などで何の症状もないうちに発見・診断された「発症前型」の患者さんが適応となります.銅キレート薬(D-ペニシラミン,塩酸トリエンチン)と併用する場合はあらゆる病型の患者さんに使用可能ですが,銅キレート薬と亜鉛薬の併用は主に初期治療に用いられます.

☆ 服用量

   成人 16歳以上       50mgを1日3回

   小児 6歳以上16歳未満   25mgを1日3回

      1歳以上6歳未満    25mgを1日2回

          食前1時間以上かつ食後2時間以上あけて服用します。

☆ 新薬のため、発売後1年間(平成21年4月30日)は、投薬は1回14日分が限度とされます。

☆ 投薬開始期には、少なくとも1ヶ月ごとに検査が必要となります。(通常の検査:肝機能検査、尿中銅排泄量など)

☆ メタライトやメタルカプターゼとノベルジンを併用される場合は1時間以上あけて服用してください。維持治療期ではノベルジン単独で十分です。

☆ 薬価

ノベルジン  1カプセル     1(3カプセル)    1ヵ月     負担(3割)

      25mg  262円      75mg   786円   24,366円    7,310

      50mg 410.6円    150mg  1,232円   38,192円    11,458円 

 

問い合わせは小峰まで  0557−53−7360,  090−1533−1121

                 (18:00〜21:00)

 

 

亜鉛薬承認!

どう変わる? ウイルソン病の治療

 

 

東邦大学医学部小児科学第二講座

清水教一

 

 

 2008125日,酢酸亜鉛薬ノベルジンが承認されました.40名近いウイルソン病患者さんのご協力のもと,治験が行なわれ,本薬剤の安全性とウイルソン病に対する有効性が確認されました.おそらく本年の4月下旬か5月頃から病院で処方できるようになると思われます.これにより,日本でウイルソン病に対して使うことができるお薬は,D-ペニシラミン(メタルカプターゼ),塩酸トリエンチン(メタライト250),そして酢酸亜鉛(ノベルジン)の3種類ということになります.亜鉛薬を是非使ってみたい,と考え,承認を待ち望んでいた患者さんもたくさんおられるのではないかと思います.では,亜鉛薬が販売されることにより,ウイルソン病の治療はどの様に変わるのでしょうか?

 

@亜鉛薬の作用機序

 現在我が国で使われているウイルソン病の2つの薬はいずれも銅キレート薬であり,血液中で銅と結合し,尿中へ排泄させることにより除銅しています.それに対し,亜鉛薬の作用とは,腸管からの銅吸収の阻害です.腸管の細胞に作用して,食事中の銅が腸管から吸収されて血液中に入るのを邪魔します.その結果,体の中に銅が溜まることを防ぎ,キレート薬よりゆっくりではありますが除銅をしていきます.また,亜鉛製剤は肝臓において細胞内にメタロチオネインという銅と結合して無毒化する蛋白質の産生を誘導し,肝臓を庇護する作用を発揮すると考えられています.

 

A亜鉛薬の飲み方

 亜鉛薬の服薬は,銅キレート薬とほぼ同様に,食前1時間あるいは食後2時間以上が良いと言われています.これは,亜鉛が食物中の繊維質と結合してしまう性質を有しているため,腸管から十分吸収させるためには食間空腹時が最も良いのです.しかし,それは銅キレート薬ほど厳密でなくても良いとされています.

 

B亜鉛薬の長所

 亜鉛薬の長所は,副作用がほとんど無い事と,その作用機序より食事制限(低銅食)を若干緩めることが出来る点です.また,服用する薬の量が「11カプセルで13回」というのも,飲みやすいと感じるかも知れません(カプセルの種類は内容量により2種類あります).

 

Cどんな患者さんに適しているか

 亜鉛薬は銅の吸収阻害剤であり,その除銅作用は銅キレート薬よりゆっくりとしています.このことより,本薬剤はすでにキレート薬治療により十分除銅され症状・所見の安定した治療維持期の患者様や,何ら症状のない発症前の患者様が使用の対象なると思われます.また,亜鉛薬がすでに認可されている欧米にて書かれた教科書には,肝型ウイルソン病の初期治療において,塩酸トリエンチンと亜鉛薬を併用する方法が示されています.

 

 以上,亜鉛薬とそれを用いたウイルソン病治療について簡単に解説しました.亜鉛薬が発売されることにより,ウイルソン病の治療の幅が広がることは間違いありません.銅キレート薬と亜鉛薬のそれぞれの作用機序と特徴を知ることにより,各々の患者さんにあった治療法を選択することができるようになるでしょう.なお,もし今後酢酸亜鉛に治療薬が変更になった場合でも,その服用は生涯継続しなければいけないことは言うまでもありませんし,怠薬により症状の悪化や再燃が起こってくることは,銅キレート薬治療と何ら変わりありません.この点にも十分な認識が必要です.

                         2008(平成20)2月記

   

        顧問医師 青木 継稔先生 の執筆文の紹介

 

ウイルソン病治療薬

 

  

亜鉛薬が承認されました

 
 


  


 

                                  顧問医師  青 木 継 稔

(東邦大学長

 

 ウィルソン病友の会の皆様、毎日お元気にお過しのこととおび申し上げます。

さて、今日は、皆様に大変嬉しいニュースをお伝えします。2008125日付にて、わが国において、ウィルソン病治療薬として亜鉛薬(酢酸亜鉛水加物:ノベルジン)が承認されました。今春、薬価収載・保険適用となり市販されます。薬価は、D‐ペニシラミン(メタルカプターゼ eq \o\ac(,))と塩酸トリエンチン(メタライト‐250 )の中間ぐらいに設定されるようです。待ち遠しかったですね。亜鉛薬の治験に参加・協力下さった患者様方には感謝申し上げます。亜鉛薬の開発から治験に情熱を注いで下さいましたノーベルファーマ社の塩村仁社長をはじめ会社の皆様に感謝致しましょう。日本における亜鉛薬(ノベルジン)は、アルフレッサファーマ株式会社から市販されます。また、治験にご協力下さった治験担当医師およびご協力下さった病院の方々にも感謝しましょう。さらに、日本小児科学会および日本先天代謝異常学会の歴代の理事長・会長・担当理事・各薬事委員の先生方、ご協力下さった各省庁・関係機関の皆様にも感謝しましょう。皆様の知らないところで色々と多くの方々にお世話になって、こうして亜鉛薬が承認されたことをよく知っておいて下さい。そして、感謝の気持ちを忘れないで欲しいのです。

 

ウィルソン病と銅キレート薬

 

1.D‐ペニシラミン療法

ウィルソン病は、遺伝的な素因により、身体に銅が貯まり、肝、脳、腎、角膜、皮膚など多くの臓器障害を起こす病気であるということが判明して、身体から銅を除去したら良いという考えのもとに多くの研究者が苦労していたのです。

1956年、イギリスのWalshe先生は色々なキレート薬の中から、D‐ペニシラミンが最も除銅効果のある銅キレート薬であることを見出しました。ウィルソン病に対するD‐ペニシラミン内服療法は画期的な治療法でした。多くの遺伝病は、今でも不治の病いであり治療が不可能ですのに、薬でしかも注射ではなく服用するだけで治療できる遺伝病はほとんどありません。Walshe先生のお陰にてウィルソン病患者様は救われたのです。治療できなかった時代のウィルソン病患者様は、ほとんどが20歳まで生きることができなかったのです。多くは、10歳代に亡くなっていたのです。D‐ペニシラミン療法は、ウィルソン病患者様の寿命を延ばしてくれたのです。

 

2.D‐ペニシラミンとその副作用の問題

D‐ペニシラミンは、とても強力な銅キレート薬であり、素晴しい除銅効果が認められ、とても優れた治療薬であることが判明したのですが、多くの副作用の出現する例が相次いで報告されるようになりました。D‐ペニシラミンには、大別して2つの副作用に分類できます。

(1)初期の副作用:初めて、D‐ペニシラミンを服用し始めて、12週間に、発熱、発疹などを認めることがあります。ふつう、D‐ペニシラミンは、目的とする最大投与量にするまでは約110量から始めて、1014日の間に最大投与量に増量します。発熱・発疹などを認めたら、一旦中止して、発疹の消失・解熱してから、今度は、極少量(15mg134回経口投与)から始めて、約2週間かけて急速減感作療法を行います。解熱薬や抗ヒスタミン薬あるいは副腎ステロイド薬を併用することもあります。極少量から開始し、急速減感作療法により最大投与量に至るまでの間に、再び発熱・発疹などが出現すれば、D‐ペニシラミンの投与は中止せざるを得ません。発熱・発疹など出現せずに成功することも多いのです。成功した場合は、ずっとD‐ペニシラミン服用は可能となります。

(2)中・長期服用中の副作用:蛋白尿、ネフローゼ症候群、腎炎、関節リウマチ、慢性甲状腺炎、重症筋無力症、類天疱瘡など重篤な自己免疫性疾患が発症することがあります。約25%の例に、これらの重篤な副作用の報告があり、D‐ペニシラミンの使用は中止しなければなりません。

 

3.塩酸トリエンチン(トリエン)療法

D‐ペニシラミンの副作用出現は、2530%の症例に認められ、中止を余儀なくされた患者様の予後は不良でした。1972年、やはり、Walsheは塩酸トリエンチンが有効であることを発表しました。Walshe 先生の功績は、ノーベル賞クラスの評価を差し上げましょうね。塩酸トリエンチンは、D‐ペニシラミンに匹敵するほどの除銅効果のある銅キレート薬であり、しかも副作用が少ないのです。長年の使用経験から、とくに神経型や精神症状の出現のあるウィルソン病患者様には、D‐ペニシラミンよりも著効を示すように思います。ただし、肝型ウィルソン病には、D‐ペニシラミンの方がやや優れているように思っています。いずれにしろ、塩酸トリエンチンは優れたウィルソン病治療薬であることに間違いはありません。副作用として、鉄欠乏性貧血や鉄芽球性貧血、白血球減少、間質性肺炎などが報告されていますが少ないです。また、これらを治療しながら投与を継続することが可能なこともあります。塩酸トリエンチンは、D‐ペニシラミンよりも副作用が少なく使い易い銅キレート薬です。重い副作用ではないのですが、服用後の強い不快感により、服用したくない、服用できないと訴える患者様もいます。今までは、ほかに変更できる薬がありませんでしたので服用を継続してもらう以外に手の施しようがありませんでした。今後は、亜鉛薬という強力な助っ人に任せることになると思います。

 

ウィルソン病と亜鉛療法

 

冒頭に述べましたように、この1月にウィルソン病治療薬として亜鉛薬(酢酸亜鉛)がわが国において承認されました。以下、亜鉛薬の概要について簡単に記しますので知っておくと便利です。

 

1.亜鉛薬の利点

 亜鉛薬の利点は、@副作用がないということ、A低銅食に気配する必要のないこと、B塩酸トリエンチンより安価であること、などでしょう。小さな副作用の出現をみることがありますが、中止しなければならないほどの重い副作用の報告はないので、安心して生涯服用し続けられると思います。低銅食についてですが、亜鉛薬治療の場合、通常ほとんど気をつけるほどのことはないのですが、だからと言って銅含量の多い肝(レバー)、モツ、えびなど無制限に食べることのないようにして欲しいです。多少、楽しむ程度は少量にしておいて下さい。あるいは、レバーやモツ類はなるべく避けた方がよろしいと思いますよ。

 

2.亜鉛薬の欠点

 亜鉛薬は、主に胃・十二指腸・小腸上部の消化管粘膜吸収細胞の金属と結合する貯蔵蛋白(メタロチオネインといいます)を沢山作り出します。食物中に含まれる銅は、メタロチオネインと結合して吸収されず門脈中に移行せず、結果として身体の中に入っていきません。亜鉛薬は、亜鉛による銅吸収阻害作用を利用したものです。したがって、亜鉛薬は毎日服用し続けなくてはなりません。消化管粘膜細胞の新陳代謝は激しく、約1週間前後の半減期にて、脱落と再生が繰り返されているのです。亜鉛薬を1週間も忘れて服用しなかったら、消化管における銅吸収が再び行われるようになり、肝臓を中心に生体内に銅が入って行くのです。

 もう一つは、亜鉛薬が銅吸収阻害薬であることを考えると、生体内に異常に蓄積したウィルソン病患者様の銅を積極的に除銅する銅キレート薬と違って、生体内除銅作用がやや緩やかに行われることになります。銅は、生体の維持に必要な微量元素(必須微量元素)であり、少量ですが毎日利用され、不必要なものが体外に排泄され(唾液、胃液、消化液、汗、尿などに銅が含まれる)ています。普通の人では、不必要な銅は肝臓から胆汁中に排泄されるのですが、ウィルソン病の方では肝臓から胆汁中に銅は排泄されませんので、唾液、胃液、消化液、汗や尿などを通して少量ずつは排泄されています。唾液、胃液などに含まれる銅は、再吸収されますが、十二指腸以下では胆汁とキレート結合するために銅は再吸収されません(私の教室の実験成績によります)。亜鉛薬を服用しているウィルソン病患者様は、@食事中の銅が吸収されない、A唾液や胃液中に分泌された銅の再吸収がない、B毎日必要で生体の維持に利用されて不要となった銅が消費される、C汗や尿から銅が多少排泄される、ことなどから徐々に身体の中の銅が除銅されていくことになります。明確な実験成績ではありませんが、亜鉛薬を服用することにより、肝を中心として亜鉛によるメタロチオネインの誘導(沢山作られること)やすでに銅と結合して貯蔵されているメタロチオネイン結合銅が亜鉛と入れ替わって除銅する作用もあり得ると考えられています。しかし、亜鉛薬服用中のウィルソン病患者様の尿中に亜鉛薬排泄量は著増しますが、銅キレート薬服用時のように尿中に銅排泄量は増加しませんので、生体内貯蔵銅を亜鉛薬が積極的に除銅をしていないと思います。そのために、銅キレート薬より除銅作用は緩やかだと考えられています。

したがって、急性期の治療は銅キレート薬(D‐ペニシラミンや塩酸トリエンチン)が主体となります。亜鉛薬を急性期に、銅キレート薬と併用しても構いません。ただし、亜鉛も金属ですので、D‐ペニシラミンや塩酸トリエンチンとキレート結合しますので、一緒に服用することはできません。食事との関係や銅キレート薬との服用時間の効果的配分を決めて併用しなければなりません。

 

3.わが国で承認された亜鉛薬

 一般名は、酢酸亜鉛水加物(C4H6O2Zn2H2O:分子量219.53)です。商品名は、ノベルジンカプセル25mgおよびノベルジンカプセル50mg2種類(ノーベルファーマ社製)です。

 用法・容量は、通常成人には亜鉛として150mg13回、食前1時間以上又は食後2時間以上あけて経口投与します。最大量は1250mgまでとなっています。6歳以上の小児には、亜鉛として125mg13回、経口投与し、年齢や症状に応じて増減されます。1歳以上6歳未満児には、亜鉛として125mg12回、経口投与するとなっていますが、亜鉛として35mgkg/日量をカプセルから粉末状として13回経口投与してもよいと思います。食前1時間以上または食後2時間以上あけて経口投与することを守って欲しいと思います。妊婦は、約12量とします。

 亜鉛薬とD‐ペニシラミンや塩酸トリエンチン等の銅キレート薬と併用する場合には、食前1時間以上または食後2時間以上あけるほかに、銅キレート薬とは1時間以上の間をおいて経口投与しなければなりません。一緒に服用すると、両方の薬剤の効果が全く無くなってしまい無駄になります。

 

4.症状や検査結果が安定した維持期の治療

 担当医(主治医)から、急性期を乗り越えて安定期・維持期になりましたと説明され、これから維持療法に移りますと言われたとき、どのような維持療法が選択されるのでしょうか。以下の方法が考えられます。

(1)急性期に導入された銅キレート薬(D‐ペニシラミンもしくは塩酸トリエンチン)の維持量(通常は急性期の約12量)にて、銅キレート薬単独維持療法を行う。

(2)維持期に入り、銅キレート薬を中止して、亜鉛薬単独療法に切り換える。

(3)銅キレート薬一剤の維持量12回と亜鉛薬12回の併用療法を行う。

 小児期の早期発見例の多くは発症前型のため、急性期治療をしないで直接維持療法を行うとき、亜鉛量35mgkg/日量の亜鉛単独療法が推奨されます。担当医師(主治医)の指示にしたがって下さい。

 副作用、食事、費用なども十分に考慮されるべき問題と考えます。

 

おわりに

 

 ウィルソン病治療薬のわが国への亜鉛薬導入に際しての裏話を記し、後日談として知っておいて欲しいことを以下に記します。

 わが国へのD‐ペニシラミン導入には、ウィルソン病の男児を持つ母親の勇気(当時の厚生大臣に直訴:橋本哲雄氏のお母様)により、早く認可されたというお話は皆様、よくご存じと思います。

 塩酸トリエンチンの導入は、有馬正高先生(ウィルソン病友の会顧問医師)が中心となって、株式会社ツムラの絶大なるご支援のもとに、日本におけるオーファンドラッグ(稀用薬)第1号として承認されました。私も有馬正高先生の研究班に加えていただきました。

 今回の亜鉛薬は、従来日本において唯一承認されていた胃潰瘍治療薬(プロマック:ゼリア新薬)がありましたが、ウィルソン病の保険適応がなく、しかも亜鉛量が少ないものでした。そこで、約45年前に、私の方からゼリア新薬の開発担当の方々に声をかけてプロマックのウィルソン病保険適応拡大のための治験の相談を始めた矢先に、ノーベルファーマの塩村仁社長から、「是非、うちの会社に開発をさせてくれ」と申し込まれました。塩村社長のやる気と熱意、そして頼もしさに感じ入った私は、当然困り果ててしまいました。私は、「すでにゼリア新薬と話が進み治験の相談にまで進んでいる。本当に、塩村社長が熱意をもって開発してくれるなら、ゼリア新薬ご担当の方々に是非相談して欲しい」とすぐにお伝えしました。数日後に、塩村社長から、「ゼリア新薬と話がついた。是非、当社が開発するからお願いしたい」というお話でした。私も驚き、ゼリア新薬の担当者と話したところ、「プロマックは、味覚障害の亜鉛欠乏症の治験を行うので、ウィルソン病はノーベルファーマの塩村氏にお任せする」という返事をいただきました。そのとき、私はノーベルファーマ社という名前すら知らなかったのですが、塩村社長のやる気と熱意に打たれ、『この方なら、きっとやり遂げてくれる』と確信し、企業主導型にてお任せする決心をしました。今から思えば、本当にありがたい話であり、私の定年退職も近いこともあり、私の最後の仕事として、『ウィルソン病治療薬として、わが国に亜鉛薬を導入する』ことを念頭に、日本先天代謝異常学会の薬事担当の理事・小児の医薬品開発のために設置された厚生労働省研究班(大西班)の班員となり推進してきていましたので、塩村社長に感激したのです。ウィルソン病と言っても世間では知らない人も多く、遺伝性代謝疾患であり、全国の患者数も約千名程度と少なく、薬を開発しても商売にならず儲からないということもあって、開発に乗ってくれる企業がなく、諦めかけていたころのことでした。わが国においては、薬害問題がクローズアップされ、マスコミも興味本位にて大きく取り上げ、厚生労働省も対応に追われるようになりました。新薬開発に新GCPといった厳しい条件が課せられ、多額の費用と不可能なほどの治験や研究成果を要求されるようになりました。そんな中でもあり、ウィルソン病に対する亜鉛薬の開発に着手して下さり、改めて感謝する次第です。

 

2008(平成20)年2月12日記

 

 

東邦大学 学長  青 木 継 稔

 

 ウィルソン病友の会の皆様、毎日お元気にお過しのこととおび申し上げます。

さて、ウィルソン病治療薬の酢酸亜鉛(ノーベルファーマ:ノベルジン eq \o\ac(,))の我が国における治験が終了し、今年度中の認可および2008(平成20)年月に薬値収載・保険適応の見通しとなりました。酢酸亜鉛は、D−ペニシラミン(メタルカプターゼ eq \o\ac(,))や塩酸トリエンチン(メタライト−250 eq \o\ac(,))の銅キレート作用による生体内除銅を主とする治療薬と違って、亜鉛(Zn)による消化管での銅吸収阻害作用を利用したウィルソン病治療薬です。消化管の亜鉛や銅の吸収細胞は、約1週間にて新しい細胞へと新陳代謝されますので、亜鉛を毎日服用して吸収細胞を亜鉛で一杯に満たしておくことにより、銅の吸収を抑制してくれるのです。〜5日服用しないと、吸収細胞の亜鉛量が少なくなり、銅を吸収して、生体内に入ってしまいます。したがって亜鉛薬は、毎日服用しなければなりません。亜鉛薬の特徴は、銅吸収阻害作用ですので、亜鉛薬服用中の銅制限食の必要がなくなることです。銅含量が極めて多いレバーなどを避けるくらいでよろしいのではないかと思っています。

今回は、ウィルソン病の認識を深めていただくために、その研究の歴史を知っていただくことに致しました。皆様のウィルソン病に対するご理解を深めて下されば幸いです。

 

 

ウィルソン病の歴史と背景

 

1.疾患単位として独立(病名決定)

 1912Wilson(ウィルソン)は、『肝硬変を伴う家族性進行性レンズ核変性症:progressive lenticular degeneration ; a familial nervous disease associated with cirrhosis of the liverと題した論文を記載しました。Wilsonの報告例は1883年のWestphal1898年のStrumpellらの報告した仮性硬化症と極めて類似し、家族発生があり、肝硬変を伴っていることから肝硬変と錐体外路症状との間に明らかな関連があることと指摘しました。眼科医であるKayser1902年)およびFleischer1903年)は相前後して仮性硬化症患者の眼の角膜周囲緑褐色〜黒褐色の輪状の色素沈着を有することを発見して報告したのです。この角膜周囲の緑色を呈した物質が後日銅と判明しKayserFleischer(カイザー・フライシャー)角膜輪と呼ばれるようになったことは、皆様もよく知っていることと思います。以降、仮性硬化症とレンズ核変性症は、同一の病気であり、肝硬変の合併、KayserFleischer輪の存在も1つの特徴であることが認識されるようになり、1つの独立した疾患単位であることが判明して、ウィルソン病もしくは肝レンズ核変性症hepatolenticular degeneration)と呼ばれるようになりました。今日では、肝レンズ核変性症よりウィルソン病と呼称されている方が圧倒的に多いです。

 

2.銅の代謝に異常があることが判明

(1)Rumpel は、1913年にウィルソン病患者の脳に銅が過剰に沈着していることを初めて見出しました。その後、多くの研究者から本症患者の脳だけでなく、角膜、腎などの臓器にも銅が増加していることが報告されました。

(2)尿中銅の増加

1948年、Mandelbroteらは、ウィルソン病患者の尿中に銅が著しく過剰に排泄されていることを初めて発表し、その後、他の多くの研究者によっても同様の報告が相次いでなされました。

(3)血清セルロプラスミン低値の発見

1952年、Scheinberg Gitlin Dは、本症患者の血清セルロプラスミン値が著しく低値であることを初めて発見し報告しました。セルロプラスミンは、銅が必要な蛋白質ですが、ウィルソン病患者において肝でのセルロプラスミン合成障害があるため、血清セルロプラスミン低値を示すことが後日判明しました。 

 

以上の研究報告は、極めて重要な事項であり、ウィルソン病が銅代謝異常に起因する疾患であることを明らかにしたものでした。

3.常染色体劣性遺伝が判明した時期

 1912年に発表したWilsonは、最初の報告に家族発生を記載したのですが、その頃は、遺伝的要因よりも環境的要因を考えていました。1921年、Hallはウィルソン病が常染色体劣性遺伝をするのではないかと推論しました。1960年、Bearnはウィルソン病の多くの家系例を集めて分析した結果、本症は間違いなく常染色体劣性遺伝形式をとることを確証しました。我が国では、有馬先生らの詳細な研究が報告されています。

 

4.治療法の開発とその変遷

(1)銅排泄促進の工夫

  1951年、Cumingsは、銅キレート薬としてBALβ, βdimercaptopro

-panol)を本症患者に連日筋注して、その有効性を最初に報告しました。さらに、銅キレート薬としてEDTA投与、銅吸収阻害薬として硫化カリウム経口投与などが試みられましたが、とくに有効であったという報告はなく、BALの有効性のみが報告されたに過ぎませんでした。BALの有効性は認められましたが、毎日毎日、筋肉注射することの問題や副作用への不安がありました。

(2)D‐ペニシラミン療法の確立

1956年、Walsheはペニシラミン(銅キレート薬の一つ)本症に著効することを発表し、BAL筋注の疼痛・苦痛の解放と銅キレート薬の経口投与を可能にしました。初めは、DL型ペニシラミンが使用されたのですが、副作用が多いため、D型(D‐ペニシラミン)が広く用いられるようになり、同時に低銅食療法も併せて提唱され、ウィルソン病におけるD‐ペニシラミン療法が確立し普及したのです。

(3)D‐ペニシラミンの副作用と塩酸トリエンチン

上述のごとく、本症に対するD‐ペニシラミン療法が確立されたのですがD‐ペニシラミンに対する不都合な副作用の問題が多く報告されるようになりました。とくに重篤な自己免疫反応による様々な疾患の出現は、D‐ペニシラミン治療の継続が出来なくなる本症患者の約25%にも達したのです。

1972年、やはりイギリスのWalsheは 塩酸トリエンチン(トリエン)の銅キレート効果があり、本症に極めて有効であることを報告し、D‐ペニシラミン不耐患者に大きな光明を与えてくれました。塩酸トリエンチンは副作用が少ないということも、その後判明しました。

(4)亜鉛薬(銅吸収阻害薬)の登場

1961年、Schouwinkは本症患者に治療目的にて亜鉛剤を投与したということですが、特別論文として発表されませんでした。その後、1983年に米国のBrewerらは、本症に対する亜鉛薬(酢酸亜鉛)の有効性を報告しました。ほぼ同時期の1984年に、オランダのHoogenraadらは、硫酸亜鉛の経口投与が本症患者に有効であることを発表しています。1997年、米国FDAはウィルソン病治療薬として酢酸亜鉛を承認しました。

(5)肝移植の導入

ウィルソン病肝不全患者に、最初肝移植を行ったのは、1971年、Dubois RSらでした。その後、神経型ウィルソン病にも肝移植が実施された例の報告がなされました。ウィルソン病における肝移植は、劇症肝炎型や慢性肝不全例には極めて有効ですが、本症の肝移植の適応(肝移植をすべきかどうかの判定)については慎重にすべきであるという意見が多いのです。

(6)新しいキレート薬TTMについて

TTMtetrathiomolybdate:テトラチオモリブデンは、経口投与可能であり、腸管細胞から吸収されて、銅−アルブミン−モリブデン結合体を作り、肝細胞に蓄積した銅を除去する作用を有し、恐らく胆汁中を経て糞便中に銅を排泄すると考えられ、一部は尿中にも銅が排泄される成績があり、急性期ウィルソン病患者に有効であるとされ、今後の新しい除銅薬として期待されています。しかし、現状では世界のどの国においても認可されていません。劇的な効果も期待され、安全性を含めた治験を行って応用すべきものと考えます。

 

5.ウィルソン病責任遺伝子の発見(クローニング)

 1993年、私ども教室の山口ら、BullらおよびTanziらにより、ほぼ同時期にそれぞれ3カ所の研究室から、ウィルソン病責任遺伝子が取り出されました。ウィルソン病責任遺伝子は、ATP−7Bと命名され、細胞内膜蛋白であり、6個の銅結合部位を持つATPase familyの一つであることが判明しました。ウィルソン病責任遺伝子は、細胞内の銅を運搬する重要なATP−7Bという蛋白であり、ウィルソン病患者はこの遺伝子に異常があり、正常に働くATP−7Bを作ることができず、働きの悪いあるいは働かない異常ATP−7Bが出来てしまうのです。ウィルソン病責任遺伝子の発見は、本症の分子病態の解明や遺伝子診断できるようになったことなど色々なことへ応用が可能となりました。さらに、将来の遺伝子治療への道も拓けたことになります。

 

6.モデル動物の発見

 ウィルソン病の病因・病態解明や治療法の開発などには、モデル動物が極めて重要です。1991年、李らや私どもの教室および北海道大学の故武市教授との共同研究によって、LECLongEvans Cinnamon)ラットが本症のモデル動物であることを報告しました。さらに、1994年、私ども東邦大学医学部第2小児科学教室と米国セントルイスのワシントン大学のGitlin JDらのグループとの共同研究にて、このLECラットのウィルソン病遺伝子の異常を見出し、山口之利が筆頭者として論文発表を行い、LECラットが文字通りにウィルソン病モデル動物であることを確証しました。また、1983年、Rauchらにより報告されたtoxic milk mouseも、1996年にウィルソン病遺伝子異常が見出されて、改めてウィルソン病モデル動物として認識されました。

 

 

ウィルソン病研究の今後の展望

 

 ウィルソン病研究の歴史は、間もなく100年を迎えようとしています。多くの先人たちの努力の結晶により、本症の病因、病態、分子生物学的な銅代謝の解明や本症の分子病態解明、遺伝子のクローニング、治療法の開発などが進展してきました。また、ヒトの生理的な銅代謝機構についても、この10数年間に飛躍的な進歩を遂げました。

 しかし、ウィルソン病や銅代謝に関する研究のすべてが解決したわけではありません。例えば、ウィルソン病の中枢神経症状の発症機序や脳内銅代謝機序などはほとんど解明されていません。銅は、生体にとって必須微量元素ですが、まだまだ不明な点が多いのです。本当の銅の栄養所要量、銅と亜鉛・鉄などの重要重金属との生体内相互作用などもまだまだ未知な部分が多いのです。

 

 

ウィルソン病研究の進歩に患者さんとそのご家族の協力が不可欠

 

 上述のごとく、ウィルソン病研究の歴史は、研究者と患者さんとそのご家族の協力のもとに発展してきたと言っても過言ではありません。今後においても、益々協力関係が必要であることに変わりありません。

 例えば、将来に向けての問題点の一つは、我が国における本症患者さんの治療歴はまだ40数年です。40年前に治療を開始した本症患者さんは、50歳を越えて参りました。あと10年、20年、30年先はどのようになるのでしょうか。本当に天寿を全うできるか何か合併症が出ないか60歳を過ぎても薬の量はそのままでよいのか、など沢山の問題があると思います。厚生労働省の研究班などにおいて、係官やウィルソン病のことをあまり知らない評価委員の先生方から、@ウィルソン病に銅キレート薬を使った場合と使わなかった場合の生命的予後に、どのくらいの差があるのか、確実なデータを示して欲しいとか、A治療されているウィルソン病患者さんのQOLの質はどの程度か、B遺伝子異常の色々なタイプと病型との間に何か差異があるのか、C治療薬の副作用にどんなものがあり、その頻度はどうか、など色々質問されることがあります。色々と質問されても、確実なデータを答えるだけの臨床成績を示すほどのデータの集積がないのが現状です。研究を発展させるためには、沢山の資金が必要であり、国から研究費を補助して貰わねばなりません。さらに、患者さんへの医療費の援助をお願いしなければなりませんが、不確実なデータだけでは信用も得ることができません。そのような意味においても友の会の役割が重要です。ウィルソン病患者さんの色々な臨床成績を多く集めて分析することから得られる恩恵は、すべて患者さんやそのご家族が受けるのです。そのあたりをよくご理解下さり、地道な研究にご協力下さることを改めてお願いしたいと思います。

                                                                    2007(平成19)年8月

 

   

より良き生涯を送るために

—— 自己管理がとても大切 ——

 

東邦大学 学長  青 木 継 稔

 

 「Wilson病友の会」の皆様、お元気に毎日をお過しのこととお慶び申し上げます。

さて、Wilson病の新しい治療薬『酢酸亜鉛』(ノーベルファーマ社)は、業者主導による治験の終了や諸調査が終了したとのことにて、今年の夏頃に認可・薬価収載(健保採用)される見通しとなっているようです。当初の予定より、多少遅れているとのことですが、確実に前進していますのでご安心下さい。

 

今日は、Wilson病患者(児)およびそのご家族の皆様に、より良き最高の生涯を送っていただくために、最も重要なこととして、自己管理について簡潔に記載します。今までお話してきたり、書いてきたことをまとめるため、重複することも多いと思いますが、「人間は忘れることが多い」、「のどもと過ぎれば熱さを忘れるなどの格言がありますので、重要なことは何度も何度も繰り返しお伝えすることが必要と考えています。

 

1.「Wilson病であることから逃げないこと」、「Wilson病と友達になって生涯つき合うこと」がとても大切です

 思春期から青春期にかけて、「自分がWilson病であることを自分で否定してしまう」、「自分だけがどうしてWilson病になってしまったのか」、「自分はこんなに元気であり、ほかの人と同じようにしているし、やれるし、何故Wilson病なんだろう」などの疑問を持つ方が多いと思います。この時期は、極めて多感な年齢でもあり、自己否定をしたり、現実から逃避したりすることがあります。

でも、いくら否定を自分でしても、現実から逃れることはできません。しっかりと事実を認識して、Wilson病から逃げないで下さい。現実を受容することの精神的な苦痛があることは、よく理解できます。しかし、「しっかりと受け止める(受容すること)」ことが極めて重要です。そして、『Wilson病と友達になって生涯つき合う』のです。Wilson病を受容し、友達となったときから、輝ける未来が開けるのです。Wilson病のそれぞれの症状が、ほとんどないか、軽い状態であれば、治療を開始し、治療を継続すれば、他の健常人と全く同じ生活や仕事が十分に出来るはずです。また、症状がある程度進んでいても、かなり回復して、普通に何でも出来る例も多いのです。

受容することが遅くなり、回復が十分でなかったり、症状が進行してしまった場合、あるいは長期間の治療の中断による増悪などにより、後遺障害や進行した障害を持つことがあり、その後の生活に制限がかかったり、作業・学業・仕事などに支障をきたすことも稀ではありません。

 

2.Wilson病は発症予防・治療可能です

 友の会のメンバーの方々は、Wilson病が治療可能であり、早期発見すれば発症予防できるということは誰も知っていると思います。しかし、ある程度の進行した症状がある場合、見かけ上、軽快したとしても潜在性に障害を持っていることを十分に理解しておかねばなりません。もちろん、長い間治療を継続することにより、潜在性の障害(例:肝硬変など)も多少の改善があると思いますが、元の病気発症前の状態には戻っていないことがほとんどなのです。

したがって、発症がまだ出ていない時期や非常に軽いうちに診断がなされ、治療を開始すればするほど良いということは理解できると思います。しかし、潜在性の障害や自覚的・他覚的症状を残すような場合は、治療を自己判断にて中断してしまいますと、必ず悪化してしまいます。数年以上の怠薬しますと、重篤な症状の出現、突然の悪化徴候や死の危険が迫ることが多いのです(このことは、前回にも書きました)。それ故に、治療を中断したり、怠薬することは寿命を縮めることになるということを十分に認識しておかねばなりません。

生涯にわたって、治療を継続する必要があることは、大変に気の重いことなのですが、ちゃんと治療を行い、Wilson病治療薬を適切な量を適切な服用方法(空腹時に服用)により、天寿を全うできることは他の遺伝性疾患など治療できない病気と比べれば、本当に幸せなことと思いますし、感謝しなければならないと考えます。

 

3.無病息災ではなく『一病息災』です

 神社や寺院あるいはあらゆる神々に、私たちは「無病息災(病気をしないで達者でいられること)」を祈願したり、お札(ふだ)をいただいたりします。人間、生きている限り、誰もが病気をせずに健康でいられるように願うのは当然のことです。でも、病気もせずに健康で日々を過している人々の多くは、健康であることが当然のことであり、健康でいられることへの感謝の気持ちを忘れがちです。一度、重い病気に罹患するとか、慢性長期化するような病気を患ったりして、初めて「健康でいることのありがたさを身に沁みて体験する」のです。やはり、自分自身が病気をしてみないと、病気をした人や病気を持つ人の気持をよく理解できないのではないでしょうか。そこで、「無病息災」というよりは『一病息災(一つの病気を持つ人は、健康でいることのありがたさが一番よく分っているので、一つの病気を持っていて、でも健康でいられること・日常生活ができること・学校に行けること・仕事ができること・結婚し、子育てもできることなどへの感謝を込めて一病息災を願う)』ということの意義が大きいのです。

『一病息災』の意味を十分に理解して、命あること、一病(Wilson病)ありともそれなりの健康状態(多少の後遺障害があったとしても)でいられることなどへの感謝の念を抱くことが必要と思います。

Wilson病であることに気持が負けてしまい、両親を恨んだり、世間をうとましく思ったり、やけを起こしたりなど、よく聞く話ですが、どうぞ、胸につかえているものは身近な人や親しい人あるいは私どもに吐露して下さい。そんな気持を内心に秘めて、ひきずることほど、自分をいじめて、自分を落ち込ませるだけで良いことはありません。Wilson病を持ったことを恨まずに、難しいことかもしれませんが、感謝の念を抱けるような心意気と人生観や価値観を持って欲しいのです。

 

4.Wilson病の子どもに対する親の対応

 不幸にして、自分の子どもがWilson病と診断されたご両親の気持は、想像を絶するものがあり、なかなか「受容」できるまで心の葛藤が大きいことと思います。とくに、遺伝病であると説明されますと、親としての責任(どうしようもないことですが)を強く感じてしまうことでしょう。しかし、深い愛情のもとに、決して甘やかすことのないよう普通の子と全く同様に育て教育する必要があることを十分に理解しなければなりません。そして、一方では、Wilson病に対する管理や病気への教育など難しい問題を抱えることになります。単に、強要したりすることは思春期から青春期に強い反発・反抗を招くことになりかねませんので、小さい頃から理解できないまでも、Wilson病のことをお話し、繰り返すことにて、心の隅に納得する芽ができてくると思います。

 

5.自己管理がとても重要です

(1)自分の病気を理解し支えてくれる人々

以上の1〜4は、「心・気持の持ち方」を中心に述べてきましたが、こういった気持や心境になることが分っていても難しいと思います。自分を精神的に強くして欲しいと願っています。でも、人間は誰も、ひとりで生きて行くことはできません。ひとりひとりの人間は、本当に精神的に「もろい・折れそうな人」が多いのです。『愛情という絆』(父母、兄弟姉妹、家族、夫婦、恋人など)の身近な人々の支えが必要なのです。理解してくれる人たちが身辺にいれば、勇気百倍ですね。でも、甘えてばかりでいることは許されませんよね。しっかりと、自己管理を習慣づけて下さい。

 

(2)自己管理すべき主な項目

 大切な項目を以下、箇条書きにします。面倒くさがらずに、実行して下さい。難しいことではありません。ここに記載する以外にも重要なことがあると思いますが、紙面の都合上、今回は割愛させていただきます。

 @くすりを忘れず、正しく生涯にわたって服用すること。

 A銅含量の多い食品を摂取することを避けよう厳重な食餌制限は必要なし)。

 Bくすりの予備を1カ月分い保ておこう阪神淡路大震災の教訓

 C少なくとも、数カ月に1回は担当医の病院を訪れよう。年1回超音波やCT検査、眼科的検査、年数回以上血液と尿検査、必要に応じて食道内視鏡検査など。担当医の指示に従って下さい。

 DWilson病友の会には加入し、参加しよう。有益なことが多いと思います。

 E心配事は早めに相談しよう。Wilson病友の会事務局、会員相互、担当医・主治医、セカンドオピニオン医師(私どもでも可)など。

 

 最後に、皆様方の益々のご健勝とご活躍を祈念します。また、Wilson病友の会が益々発展し、さらに多くの会員を増やして、本病への理解を深め、お互いのQOL(生活の質の向上)などに会員相互の親睦がなされますよう祈念しています。

2007(平成19)年2月吉日

 

 

 

    

怠薬防止について

 絶対に怠薬をしないで下さい 

 

                                                      ウイルソン病友の会顧問医師  青 木 継 稔

                                                                                (東邦大学・学長)

 

 

ウイルソン病友の会の皆様、いかがお過しでしょうか。きっと、お元気に頑張っていらっしゃることとお慶び申し上げます。

いつも申し上げることですが、D‐ペニシラミン(メタルカプターゼ)、塩酸トリエンチン(トリエン:メタライト‐250)あるいは亜鉛薬など、忘れずに、正しく服薬されていらっしゃることと信じています。肝移植された方は、ウイルソン病治療薬ではなく、免疫抑制薬やその他のお薬を処方され、正しく服用されていらっしゃると思います。

今回は、いつも申し上げていることですが、ウイルソン病治療薬を忘れて服用しないとどうなるかということについて、お話をしたいと思います。 私が経験した実際に、あったことを中心に紹介したいと思います。

 

 

怠薬(治療薬の飲み忘れ)

 

治療薬を何ヵ月あるいは数年にわたって服薬しない場合やときどき飲み忘れるなど、大きな差がありますが、怠薬といいます。怠薬の程度にもよりますが、怠薬は、明らかな身体に関する自覚症状がなくても、確実に潜在的にウイルソン病を増悪させているのです。肝障害・肝硬変、精神・神経症状、腎障害など、治療薬を数ヵ月くらい服用しなくとも、自覚症状あるいは血液検査などに異常を示さないことが多いのです。したがって、数ヵ月服用しなくとも、何ともないので、そのまま継続して服用しなくとも大丈夫ではないか、という錯覚に陥ることがあるのではないでしょうか。怠薬して、半年後あるいは数年後に、身体の異変が突然にやってきます。自覚症状が出てきたときは、相当進行している状態ですので、回復することが困難なことが多いのです。もちろん、回復するまでかなり時間を要したりしますし、完全に回復しないままに後遺症を残したり、死亡に至るまで色々あります。

(1)  死亡に至ってしまった場合

 

@ 10歳のとき、12歳の兄がウイルソン病と診断されて、家族内検査にて自分も兄と同様に、ウイルソン病と診断された。メタルカプターゼを服用し始めた。大学卒業後、両親とも離れて自立した。両親と一緒に生活しているときは、比較的規則的(ときに飲み忘れることもあったが)にメタルカプターゼを服用していたが,自立してから、病院に行くのも面倒くさくなり、怠薬が始まった。27歳、全く怠薬して3年後、非常に疲れ易いこと、黄疸(白眼のところが黄色くなり、皮膚の黄染)が出てきたこともあり、病院(私のところ)に紹介されてきた。劇症肝炎ということにて、色々の治療を行ったのですが、入院後数日で死亡した。

 

A 24歳女性。15歳のとき、振戦(ふるえ)、よだれ、ことばのもつれ、字が書けない、歩くことが困難などの精神症状にて、ウイルソン病と診断された。

D‐ペニシラミン投与にて約9ヵ月間にて、症状が軽快し、学校にも通えるようになった。一浪して大学にも入った。大学入学後に、怠薬が目立つようになり、再治療により、再び軽快した。大学卒業後に、再び怠薬し、急激に悪化し、精神症状も強くなり自殺した。

 

(2)  肝障害・肝硬変が悪化した場合

 

@ 診断されたとき、自覚症状がなかったが、血清AST(GOT)値や血清ALT(GPT)値が軽〜中等度に上昇している肝型ウイルソン病の小児例は、思春期から青春期に怠薬することが多い。とくに女児より男児に多い。メタルカプターゼ投与により、血清AST・ALT値は、正常化し、安定していたが、怠薬によりALT・AST値が上昇した。メタルカプターゼ再投与により、軽快したが、繰り返しの怠薬(のどもと過ぎれば熱さを忘れる)により、肝硬変に至ってしまった。肝硬変になると、また、成人の肝硬変は、血清AST・ALT値が悪化しても上昇しなくなってしまうので、肝障害の指標にできなくなってしまう。それでも、怠薬を繰り返して、浮腫、腹水などや食道静脈瘤の出現、脾腫の増大など慢性肝不全状態となる例が多い。肝移植か、姑息的な内科的治療および銅キレート薬治療にて3ヵ月から1年ぐらい治療継続していくか、迷うことも多い。多くは、内科的治療により、回復することも多いが、担当医泣かせの困った例である。ここまでくると、肝硬変で肝の機能の余裕がないため、次に同様のことが起こると死の危険が迫る。

 

A 肝硬変があり、食道静脈瘤の破裂があり、突然の大量出血にて、救急車にて運ばれてきた成人ウイルソン病例も比較的多い。ひどいときは出血死に至る。輸血や止血処置を行い、回復した。しかし、肝硬変が持続しているため、食道静脈瘤の硬化療法を行う必要がある。怠薬しなくとも、肝硬変の合併症として重要であり、定期的(年1〜2回)な食道静脈瘤の検査(内視鏡)が必要である。

 

(3)   精神・神経症状が悪化した場合

 

@ 思春期のころ、ウイルソン病と診断され、メタルカプターゼの治療が始まった。24歳のとき結婚した。結婚を契機に、怠薬してしまった。2人の女児を出産した(妊娠・出産により、銅が胎児の方に移行するため、母体の銅が減ってくることがある)。怠薬6年後に気力がなくなり、思考力も低下し、精神症状が出現した。紹介されて私の方の病院に来られた。メタライト‐250を投与し、約6ヵ月後に軽減し、日常のことができるようになった。

 

A 18歳のとき、肝型ウイルソン病と診断された。メタルカプターゼを投与され軽快した。26歳ころから怠薬し2年間、とくに自覚的・他覚的に異常はなかった。仕事に行きたくない、人と話をするとムカつく、わけもなく暴れて父母に暴行するなどの精神症状が出現した。紹介され来院した。メタライト‐250および精神神経科と兼科の上、向精神薬を服用して約1年間にて軽快した。今は、普通に仕事をして、普通の生活をしている。

 

以上は、私の経験したほんの一部の例に過ぎません。ウイルソン病という病気になってしまったことから、逃げることはできないのです。でもウイルソン病は治療可能であり、発病を予防することのできる病気であることは、不幸中の幸い(さいわい)です。ウイルソン病について正しく理解して、ウイルソン病と友達になって生涯つき合っていくより仕方がありません。

 どうぞ、決して怠薬をしないで下さい。怠薬しなければ、天寿を全うできると確信しています。怠薬すればするほど、自分の尊い生命を縮めてしまうのです。

 

平成18810日 記 

 

 

 

薬を忘れず服用して長生きをしましょう

―― 天寿を全うできる期待が膨らむ ――

 

東邦大学・学長  青 木 継 稔 

 

 

 ウィルソン病友の会の皆様、お元気に毎日を力強くお過しのこととお慶び申し上げます。

 

2005年度の『友の会』について

 

 昨年(2005年)は、5月18日(日)に東京(東邦大学医療センター大橋病院教育棟)において「全国大会」が開催され、11月13日(日)に大阪・高槻市 (大阪医科大学講堂・小児科玉井浩教授のご厚意による)において「関西支部会」が開かれて、私も参加させていただきました。さらに、昨年11月中旬に熊本市民会館にて第48回日本先天代謝異常学会(会長・遠藤文夫熊本大学小児科教授)が3日間開催された折に、熊本大学小児科の遠藤教授や中村公俊先生が「熊本を中心とするウィルソン病友の会」を11月18日(金)の午後に開催して下さいました。私も参加させていただき、患者様やそのご家族の色々なお話をお聞きすることができ感激しました。ウィルソン病患者様やそのご家族の皆様と、「色々な友の会」の場におきまして、直接お目にかかり色々なお話を直接お聞きすることは、私ども医師にとりましても大いに勉強になり、今後の医療に役立つものです。「友の会」の存在や会を開くことは、会員相互の交流や情報交換の場となり、体験や共通の悩み・心配事の解決の糸口ともなります。また、医師との質疑や医師・栄養士ほかの講演やお話もあったりして参考になることも多いと存じます。上記のいくつかの「友の会」に参加して、いずれも充実した内容であり、改めて「友の会」の意義を痛感しました。これからも各地に「友の会・支部会」ができると良いですね。世の中は、この10年の間にあっという間に情報化社会となってしまいました。「ウィルソン病友の会」もホームページを立ち上げていますし、会員相互のメール交信も活発となってきた様子なので、色々な情報交換をしたり、情報収集したりすることもできて便利になりました。それでも、“face to faceということも大切であり、「友の会」を定期的に開催し継続することが大切と思います。

 

ウィルソン病と「寿命」のお話

 

(1)50歳を越えた日本のウィルソン病患者の方々

 前号の私の書いた記事「D−ペニシラミン40周年を迎えて」(会報WillNo.1924,平成17年9月24日発行)の中において、ウィルソン病の治療にD−ペニシラミンが導入され、40年ということをお伝えしました。銅キレート薬がウィルソン病患者様のからだに蓄積している銅を主に尿中へ排泄を促がし、除銅することにより、治療できたり、発病予防ができることが可能となって40年以上が経とうとしています。銅キレート薬治療が本症に導入される以前は、ほとんどのウィルソン病患者様は小児期から青春期に亡くなられていたのです。20歳以上生存される方は極く少数でした。従来、治療が不可能とされていた劇症肝炎型(肝不全を伴う例であり、全ウィルソン病患者様の5〜7%に存在)には、この10年の間に肝移植療法が可能となり、救命・生存例が著しく増加し、隔世の感があります。

 約40年あるいはそれ以上前から治療を開始した方々は、50歳台に突入しています。私の周りにいらっしゃる方々です。皆様は、兄姉などの同胞がウィルソン病にて亡くなられ家族内検索にて発見された方が多いです。一部には、肝型あるいは神経型にて発症され、比較的早期発見・早期治療が行われ、ほとんど症状が目立たない程度に回復された方も含まれます。30年以上の治療歴あるいは20年以上の治療歴の方々も、30歳代半ばから40歳代になられています。症状が残存し、後遺障害を有する方もかなりいらっしゃいますが、それぞれの健康度を少しずつ改善あるいは向上させながら日頃頑張っていらっしゃいます。多くの方々は、発病時に認められた症状が、ほとんど消失して通常と全く変わりないくらいまで回復したり、軽快しています。

 

(2)健康度と怠薬について

 ここで健康度について説明します。『健康度』を分り易く解説しますと、「健康で病気もなく普通の生活を送っている人のレベルを1.0とします。病気・その他にて死亡してしまった人のレベルを0とします。植物状態にて寝たきりの人は限りなく0に近いです。病気があっても何ら日常生活など色々なことが可能な人は、限りなく1.0に近いと言えます例えば、肝硬変があり日常生活の中において運動を制限されたり食事制限をされているウィルソン病患者様は、0.75とか、神経症状が出て歩行が上手く出来ないと、0.4とか、数値で表現します。明確な基準はありませんのでそれぞれ個人的に、0〜1.0までの段階にて数値を示すものです。」というように理解して下さい。

 「怠薬を数年あるいはそれ以上されて、劇症肝炎型あるいは急速な神経症状の出現と進行にて亡くなられたケースを何例か経験しておりますが、怠薬により再び症状が出現しても回復される方も多いのですが、やはり健康度は確実に低下します。「怠薬」は、あなたの寿命をより短縮させるのです。

 

(3)加齢とともに心配なこと

 ウィルソン病の方々が加齢し、50歳、60歳あるいは70歳代になられてくると、医学的な心配なことが、新たに2つあります。一つは、肝に銅がなおある程度蓄積していることおよび肝硬変による肝癌の発生頻度が一般人口頻度より高くなるかも知れないという心配、もう一つは鉄の増加・蓄積(一般に、ウィルソン病に関係なくどんな人でも高齢になると諸臓器に鉄含有量が増加します。血清セルロプラスミンと鉄代謝とは、極めて密接な関係があります。低セルロプラスミン血症があると、加齢とともに体内に少しずつ鉄が蓄積し、高齢化するころに多臓器の鉄過剰となり障害が発現するのです)が懸念されます。ただし、体内に貯蔵鉄が増加していることを判断する指標があり、それは血清フェリチンを測定し、異常高値を示せば体内鉄過剰の判定ができます。体内への鉄蓄積は、ウィルソン病と同じような大脳基底部が障害されて、錐体外路症状を中心とする中枢神経障害を生じますので、ウィルソン病の神経症状なのか、鉄過剰による錐体外路症状なのか、を区別することが必要になるかも知れません。以上の2つのことは、まだ、よく解明されておりませんので、過度に心配することは全くありません。今後の私どもに与えられた大きな研究課題です。 

 ウィルソン病患者様の生存年齢が高くなってきたための一つの嬉しい新たな課題と言えます。

 

(4)怠薬をしないで天寿を全うしましょう

 私は、『怠薬』をしなければ、ウィルソン病を持っていても、恐らく、その人の本来持って生まれた寿命(天命)を全うできるものと信じて疑いません。病初期の重症度や治療経過、あるいは加齢とともに出現してくるウィルソン病以外の色々な病気との合併(例えば、ウィルソン病性肝硬変にC型肝炎の合併があると早世してしまう可能性が大である)とその程度などを考慮しなければなりませんが、「ウィルソン病の人は短命である」ということは、もうありません。

 

(5)でもウィルソン病は病気の一つです

 ウィルソン病は天寿を全うできると私は書きました。じゃあ、天寿を全うできるということを考えていくと、「ウィルソン病は難病」ということは最早、当てはまりません。逆に、「ウィルソン病って、本当に病気なの?」という軽視する見方も出てくるかも知れません。

しかし、ウィルソン病は『重大なる病気』であることは忘れてはなりません。怠薬すれば発病したり、増悪したり、急激に命を落とすことになることは間違いないのです。銅キレート薬や亜鉛薬などのウィルソン病治療薬は、服薬を間違えないように生涯にわたって、服用し続けることです。とにかく、『絶対に怠薬しない』ことを誓って下さい。

「怠薬しなければ天寿を全うできる」ということを信じて、明るく、強く、楽しく毎日を生き抜いて下さい。

 

                                           平成182006)年123日 

 

 

 

-ペニシラミン40周年を迎えて

 

東邦大学学長  青 木 継 稔 

 

 友の会の皆様、毎日お元気にお過しのこととお慶び申し上げます。

 毎日治療薬を忘れずに飲んで下さいねまた銅キレート薬(D-ペニシラミンメタルカプターゼ、塩酸トリエンチンメタライト-250)および亜鉛薬など、食後3時間以上で次の食事前1~2時間の空腹時に、1日量を2回あるいは3回に分けて服用して下さい。そうすれば、症状の出現や進行を阻止することが可能であり、より高いレベルの健康度を維持することができるのです。薬を生涯にわたって服用し続けることは、大変なことと思いますが、どうぞ、頑張って下さい。

 今日は、日本にD-ペニシラミンが導入されて40周年を迎え、そのころから服用している方々が、50歳あるいはそれ以上の年齢に達し、お元気にご活躍されていることを、『友の会』の皆様に知っていただきたく、筆をとりました。

 

 D-ペニシラミンメタルカプターゼの日本導入40周年を迎える

 

 ウィルソン病患者さんのからだに蓄積している過剰な銅を体外に排泄させる除銅ことを目的として今から50年以上前から色々な銅キレート薬が開発されていました。D-ペニシラミンが極めて有効であるということを最初に報告したのはイギリスのWalsheという人でした。ウィルソン病患者さんへのD-ペニシラミン治療が1956年以降急速に世界に拡がりその有効性について、次々と研究発表がありました。わが国におきましては有馬正高先生が米国や英国から少しずつ個人的に送って貰い少数の患児(者)さんに投与してその効果を確認されました。

 ウィルソン病のD-ペニシラミン投与が、わが国にて認められたのは、Walshe先生の発表から約10年かかりました現在の厚生労働省の認可制度でしたらもっと期間がかかったと思います)。その契機は、ウィルソン病の子を持つある母親の嘆願が当時の厚生大臣を動かしたのです有馬正高先生のお話とご本人の後日談)。武田薬品工業株式会社が輸入・販売元となり、本当に画期的なわが国のウィルソン病患者さんたちへの福音であったと思います。D-ペニシラミン治療がなされなかった時代は、多くの患者さんは思春期ころから長くても20歳以前に亡くなられていました。当時は、「ウィルソン病は不治の病」であったのです。

 ご兄弟姉妹が、不幸にしてウィルソン病にて短い命を奪われ、ご家族内の検索を行ったところ、やはりウィルソン病と診断されたご兄弟姉妹がおられ、幸いにして、D-ペニシラミンの恩恵にあずかった方々やウィルソン病と早期に診断され治療できた方々の中には、すでに40年あるいはそれ以上のD-ペニシラミン療法を受け生存し、そしてほとんど普通の生活を営まれているのです。D-ペニシラミンや塩酸トリエンチンという銅キレート薬を怠薬しない限り、普通の人ウィルソン病でない人と同様な生活ができて、現在、40歳台の後半から50歳台になられているのです。本当に、素晴らしいことです。

 この40年前に、治療を開始したウィルソン病患者さんたちは、これからも前人未踏のウィルソン病患者さんのトップランナーであり、『希望の星』なのです。10年ひと区切りとして、つぎの60歳台、70歳台さらにそれ以上の人生を続けていただきたいと思います。私たちも、このトップランナーの患者さんたちとともに歩み、色々と永く診せていただきたいと希望しています。

D-ペニシラミンは、数10年前から武田薬品から大正製薬に販売元が移り、現在はメタルカプターゼ”(50100200mgの各錠剤がありますとして薬価収載されています。

D-ペニシラミンがわが国において、ウィルソン病治療薬として認可されて以来、ウィルソン病は治療可能であり、早期発見・早期治療により発病予防できるという位置づけがなされるようになりました。しかし、D-ペニシラミンにも色々な問題点があり、使用できない患者さんも多く出現してきました。

 

塩酸トリエンチンの導入

 

ウィルソン病へのD-ペニシラミン療法を確立したWalshe先生は、D-ペニシラミンの副作用にてD-ペニシラミン治療を続けられない患者さんが約20〜25%存在することを報告されました。私たちも、厚生省研究班にてウィルソン病の全国調査を約15年以上前に実施した成績においても、約25%の方々に色々な副作用が出現していました。D-ペニシラミン治療を継続できないウィルソン病患者さんにとりまして、それは「死の宣告」であります。Walshe先生は、1970年代にD-ペニシラミンに代わるキレート薬として、ウィルソン病患者さんに塩酸トリエンチンが有効であることを国際誌に発表されました。その国際誌には、塩酸トリエンチン金属機械や器具の洗浄に使用される工業薬品であり、日本においても多くの企業が使用しているの精製方法の記載があり、日本においても各病院や大学研究室にて作り、患者さんに投与するようになりました今では、各倫理委員会にかけて承認を得、さらに患者さんの同意を得る必要があるのですが当時はそれほど厳格ではありませんでした)。私のところでも、10名あるいはそれ以上の方々に、塩酸トリエンチンを使用できるようにして、救命し得たことを覚えています。塩酸トリエンチンは、その後、株式会社ツムラ”のご好意と厚生省現厚生労働省のご許可により、10数年前に日本でも導入され一般化されましたメタライト-250が塩酸トリエンチンです。その後の研究にて、塩酸トリエンチンは神経型ウィルソン病の患者さんにとって、D-ペニシラミンより高い有効性が認められるようになり、現在は神経型ウィルソン病の第一選択薬になりつつあります。塩酸トリエンチンは、薬価収載の基準としてD-ペニシラミンが不耐にて使用できない患者さんに、使用することが義務づけられていますのでそこを書き直して貰う必要がありますが、厚生労働省の認可を受けるには色々の問題をクリアーしなければならず大変に面倒な手続きが必要ですこのように塩酸トリエンチンの登場により、D-ペニシラミン治療のできない患者さんをも救命することが出来D-ペニシラミン同様に治療が可能であることも判明してきました

 

D-ペニシラミンがウィルソン病治療薬の主役の座を下りるとき

 

今年、厚生労働省の認可を得て、ノーベルファーマ社の強いご尽力により、「亜鉛薬(酢酸亜鉛)」の臨床治療が行われています。恐らく、約1年か1年半先には、この亜鉛薬がウィルソン病治療として認可されることになります。ウィルソン病治療薬の第選択薬として、亜鉛薬、また、神経型ウィルソン病治療薬の第選択薬として塩酸トリエンチンということになる日も近いと思います。

そのとき、D-ペニシラミンがウィルソン病治療薬の主役の座から下りることになることが予想されます。40年間、ウィルソン病とともに歩み、ウィルソン病に光を照らし続けてくれたD-ペニシラミンに愛着が残りますが、D-ペニシラミンに感謝しなければなりません。しかし、D-ペニシラミンが主役を下りることになりましょうが、ウィルソン病治療薬として、その切れ味の良さや鋭さを忘れることはできませんD-ペニシラミンは、ウィルソン病治療薬として残りますので使用している方はご安心下さい。

D-ペニシラミンに対し、私たちは感謝の気持ちを込めて、『D-ペニシラミンよ、ありがとう』と声を上げて言いましょう。

 

平成17(2005)31 

 

 

 

 

 

ウィルソン病長期フォローアップのための登録にご協力のお願い

 

—— より良い診療とケアをめざして ——

 

青 木 継 稔

(東邦大学・学長、ウィルソン病研究会代表幹事

 

 

 国立成育医療センター・成育医療研究委託事業研究のひとつとして『先天代謝異常症・長期フォローアップのための登録』は、研究課題名「先天代謝異常症の診断ネットワークを介した長期予後追跡システムの構築」(主任研究者・松原洋一東北大学教授という研究班によって運用されています。

 

1.先天代謝異常症とウィルソン病

 先天代謝異常症は、人に生まれつき備わっている身体の代謝の一部に支障があるため、様々な症状を引き起こす病気の総称であり、数多くの種類があります。先天代謝異常症の中には、治療法が開発されたり、工夫されたりして、命が助けられたり、症状が軽くなったりする疾患もあります。

 ウィルソン病は、銅の代謝に支障をきたす先天代謝異常症の一つであり、身体に貯まった銅を薬(銅キレート薬:Dペニシラミンや塩酸トリエンチン)にて除去したり、銅が身体の中に吸収されることを阻止したり(亜鉛薬)、さらには身体に吸収される銅を多く摂取しない(低銅食療法)などにより、救命されたり、症状が軽くなったり、発症が予防されたりします。

 しかしながら、このような先天代謝異常症をもつ人がずっーと、生涯にわたって健康的な生活を送ることができるのかどうか、発育や色々な発達はどうなのか、学校生活をどのようにしていけばよいのか、就職したりするときはどうなのか、寿命はどうなのか、などについては実は、まだよく判っていません。その理由の一つとしては、先天代謝異常症は、大変めずらしい病気であり、全国をみても少ないため、一般の医師たちには経験することがなかったり、少なかったりしてよく知られていません。いわゆる専門医師が極めて少ないと言わねばなりません。患児・患者さんが、転居したり病院を変わることによって、それまでの病気の詳しい様子や検査成績が不明になり判らなくなってしまったりしてしまいます。

 

2.長期予後フォローアップの目的

 この長期予後フォロ−アップの目的は、先天代謝異常症をもつ方ルソン病も含まれます)に登録していただき、病気の診断、診断や発症年齢、症状、身体所見、検査結果、治療、成長・発達、生活状況、合併症の有無、社会参加の様子、就職などを長期にフォローアップしていこうというものです。この記録は、国立成育医療センター内に厳重に保管され、個人情報の徹底した保護のもとに、データは分析されます。

 データを積み重ねることによって、今まではっきりしなかった患児

・患者さんの長期的な健康状態や予後あるいは社会参加の様子がよくわかるようになり、将来的に、より良い医療を提供されていくことができると考えられています。

 このような長期予後フォローアップへの登録に是非、ご協力下さい

 登録をしていただいた場合でも、治療方針が変わったり、新たに検査を追加したりすることはありません。書類を記入したり、手続きそのものは主治医の先生に行ってもらいますので、あなたやご家族は、説明書をお読みいただき、同意書にご署名していただくことだけです。

 

3.登録に参加していただくと

 この登録に参加していただきますと、病気に関するあなた(あなたのお子様)自身の詳しいデータが、国立成育医療センターに長期にわたって安全に保管されます。

 あなた(あるいは、あなたのお子様)が受診されている病院のカルテに記載されている貴重なデータなどは、年数が経つとカルテと共に捨てられてしまうことが多いのです。また、転居や親元からの独立などで病院を移った場合には、それまでの詳しい検査結果が判らなくなることもあります。国立成育医療センターにデータが保存されていれば、新たに色々な検査をしなおしたりする必要もありません。

 登録していただくと、病気に関する新しい情報を定期的にニュース・レターとしてお手元に届ける予定をしていますので、治療をはじめとする研究の進歩について最新の知識を得ることができます。

 

4.登録された内容は厳重に管理されます

 登録された内容の個人情報が漏れることがないように、国立成育医療センターの医療情報室で厳重に管理します。

 あなたに関して登録されている内容については、そのすべてを、あなたの主治医やあなた自身が見ることができるようになります。

 登録に関する詳しい説明は、別の書類に記載されていますので、お願いする研究協力者などにお問い合わせ下さい(今のところ青木継稔、清水教一各医師が担当)。

 

5.国立育医療センターについて

 国立成育医療センターは、「成育医療」を専門とするわが国唯一の国立医療センターであり、2002年、東京都世田谷区に新しく誕生しました。「成育医療」は、新しい考え方の医療であり、これまでの診療科や年齢の枠を越え、妊娠、胎児から出生、小児、思春期を経て、成人への発達、また、妊娠からこのサイクルに関わる医療を総合的かつ継続的に診ていくところです。

国立成育医療センターは、病院と研究所があり、成育医療に関わる高度先進医療と臨床研究が行われています。

本研究班は、国立成育医療センター、とくに医療情報室のご協力により、国家的レベルにて実施されるものです。

 

6.研究班メンバー

 主任研究班は、東北大学教授の松原洋一先生です。分担研究者は、国立成育医療センター・医療情報室長の大原 信先生、東北大学助教授の大浦敏博先生、鹿児島大学助教授の小林圭子先生、岐阜大学教授の下澤伸行先生、浜松市発達医療総合センター・所長の杉江秀夫先生、東北大学教授の辻 一郎先生、島根大学教授の山口清次先生および私・青木継稔です。いずれは、さらに多くの研究者がメンバーに加えられると思います。

 

7.ウィルソン病の長期フォローアップ成績がないのが現状

 ウィルソン病は、(1)治療が可能である、(2)発症予防が可能である、と言われています。わが国において、ウィルソン病患者さんが何人くらいいらっしゃいますか、発症年齢や発見(診断時)年齢の分布はどうなっていますか、どのような症状で発症しますか、その頻度はどうですか、銅キレート薬は何を使用していますか、副作用が出ましたか、副作用がでたときどのようにしたのですか、劇症型にて肝移植された方はどのくらいいらっしゃいますか、肝移植後はいかがですか、怠薬される方はどのくらいいますか、怠薬により不都合な症状が出たりしませんかあるいは増悪しませんか、精神面の不安定さが出る方がどのくらいいますか、神経症状はどの程度改善するのですか、学校生活は制限されませんか、就職されておられる方はどの程度いらっしゃいますか、どんな職種に就かれていますか、就職の際にウィルソン病であることが影響を受けますか、ご結婚されましたか、お子さまは何人いらっしゃいますか、女性の患者さんは妊娠中の銅キレート薬などの治療方針に変更がありましたか、簡易保険や生命保険加入に際し不利なことがありましたか、何年間治療されてきましたか、壮年期になられた場合に将来への不安がありますか、など色々な疑問や問題点が浮かびあがってきます。世界的にも、わが国においても、ウィルソン病患者さんの自然歴、治療歴を含めたevidenceエビデンスが研究・検討されていないのです。

 国や都道府県あるいは市町村などの行政側との諸問題についての話し合い、簡易保険やその他の保険加入に関する交渉、治療や予後についての問題をお話させて頂くことも多いのですが、確実なお話を伝えることにも必要となります。そのための実績・エビデンスを長期にわたって追跡登録しておく必要があるのです。

 そのためにも、是非、皆様のご登録をお願いします。

 登録項目(ウィルソン病追跡調査用紙)は、主治医の先生に記載していただき返送してもらうことになります。

 どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

以上

                      (2005年3月)

 

 

 登録に関するご質問等は下記までご連絡ください。

          成育医療研究分担研究事務担当
          東邦大学医学部小児科第二講座
                       清水 教一
            〒153-8515 東京都目黒区大橋2−17−6
            п@03-3468-1251  Fax 03-3468-2927

 

ウイルソン病の新しい治療薬としての亜鉛(Zn)薬について

 

                           青 木 継 稔

(東邦大学長・同医学部第2小児科教授)

 

今年2004・平成16)、第8回 日本ウイルソン病研究会 5月8日・土)・第10 日本ウイルソン病友の会全国大会(5月9日・日)に米国シカゴ大学名誉教授のBrewer先生(ノーベルファーマ社招待・研究会並びに友の会後援)のご講演をいただきました。また、第46 日本小児神経学会を私が 東京( 新高輪プリンスホテル 国際館パミール7月 151617日3日間 )にてお世話させて頂いた際、オランダのユトレヒト大学名誉教授のHoogenraad先生をお招きしてご講演をいただきました。

Brewer(ブリューワー)先生とHoogenraad(ホーゲンラード)先生は、いずれも約20年前(19831984年ころ)にウイルソン病患者さんに、亜鉛Zn)薬を投与し、治療薬としての有効性を証明し報告したウイルソン病研究者です。アメリカのFDA新しい薬を承認したりするところ)はBrewer先生の強い意思と熱意および粘り強い説得により、1997年に亜鉛薬(酢酸亜鉛商品名ガルチン)をウイルソン病治療薬として承認しました。Hoogenraad先生は、硫酸亜鉛を使用されていますが、ヨーロッパでは未だウイルソン病治療薬として承認されていないとのことです。

近い将来、日本において、ノーベルファーマ社のご理解とご尽力により、酢酸亜鉛(ガルチン)の承認を受けるべく努力が始まりました。もちろん、アメリカにて承認されているからといって、すぐに日本の厚生労働省が承認するわけではありません。面倒な色々な手続きや審査会が何回も開催されて、承認を受けるのです。急いでも数年あるいはそれ以上の期間が必要です。

亜鉛薬を日本において厚生労働省の承認・許可を得るための最大の面倒な手続きの一つに、「治験」という段階が重要です。「治験」を成功させるためには、ウイルソン病患者さんの「治験」参加が絶対に必要です。「治験」を担当する病院と治験担当医師は、私どもの方で決めさせていただきます。したがいまして、わが国に亜鉛薬の治験は、『治験を担当する病院』と『治験担当医師』によって行われます。また、治験に参加し、ご協力いただくウイルソン病患者さんは極く一部少数(3040名程度)の方々に限られますが、どうぞ、『治験担当医師』からお願い申し上げた方々には快くご協力のほどをよろしくお願い申し上げます。

 

『亜鉛薬』について

 

1.ウイルソン病に対する効果(薬理作用)

経口的に服用された亜鉛は、胃や腸において銅や亜鉛を中心に吸収する粘膜細胞に吸収されて、一部は門脈側に移行し肝に運ばれます。一部は腸細胞に貯蔵(メタロチオネインという貯蔵蛋白と結合・MTZn)されます。亜鉛が連日多く服用されますと、MTZnが腸吸収細胞限界まで増加します。MTZnが一杯になった腸吸収細胞は、胃や腸に銅(Cu)が入ってきても、MTZnが銅の吸収を妨害(阻害)してしまいます。結果的に、食事や唾液・胃液・胆汁・腸液などの体液中の銅が吸収され難くなります。亜鉛は、肝細胞のMTと結合する銅(MTCu:ウイルソン病患者さんの肝臓に大量に蓄積しています)と亜鉛が競合して、MTCu ―→ MTCuZnあるいはMTZnとなり、MTCuを減少させるかもしれません(試験管内あるいは動物実験などの成績は、MTCuからMTZnになることはCuZnの化学的性質により結合力はCuの方が強いことになっています。したがって、MTZnという形になっていてそこへ大量のCuが入ってくると、MTZn ―→ MTZnCu ―→ MTCuに容易になり易いといえます。逆にMTCuという形があってそこへZnが入ってきても、容易にMTZnには変換できないということです。)が、実際にはあまり期待できないと思います。

したがって、亜鉛薬の作用は、除銅という点からは消極的な薬物ですが、胃や十二指腸あるいは上部小腸における銅吸収を抑制する薬物ということで理解しておく必要があります。銅吸収が阻害されることにより、生体に必要な銅は超微量ですがゆっくりと消費されてウイルソン病患者さんの肝をはじめ、全身の諸臓器に蓄積されていた銅が緩やかに減少して来るのです。身体の中に異常に蓄積した銅を早く追い出すための初期治療のときは、D‐ペニシラミンや塩酸トリエンチン(メタルカプターゼやメタライト-250)を用いた方が早く除銅できて、症状が早く改善します。亜鉛薬は、急性期というよりも安定維持期の治療薬として極めて優れた薬物と言えましょう。

 

2.亜鉛薬の1日量や服用方法

亜鉛薬の投与量は比較的大量です。私の経験やBrewer先生の書かれた文献から、亜鉛として、体重1kg当り3〜4r/日の量を経口投与しなければなりません。体重1kg当り1r程度では効果が悪いと考えます。亜鉛薬を服用するときの食事との関係ですが、一番良いのは空腹時(食後3時間以上)がよいと思いますが、メタルカプターゼあるいはメタライト-250という銅キレート薬も食間空腹時に服用すべき薬物ですので、亜鉛薬と併用し服用するとき、銅キレート薬と亜鉛が結合してしまい、2つの薬効が相殺全く無効なものになってしまうされてしまいますので併用の場合、同時服用は良くありません。Brewer先生は妥協して食後1時間ぐらいして亜鉛薬を服用してはどうか、とコメントされました。Hoogenraad先生は、食後30分ぐらいでもよいのではないかとおっしゃっていました。1日2〜3回に分服します。

 

3.亜鉛薬の利点

亜鉛薬の利点は、ウイルソン病治療薬の一つとして優れていることは疑う余地のない事実であり、(1)副作用がほとんどなく安全性が高いこと、(2)ほとんど食事療法(低銅食)をしないで済むこと、(3)比較的安価である(ノーベルファーマ社:今回治験となる亜鉛薬は米国から輸入するものであり、銅キレート薬よりは恐らく安価になるものと推定)こと、などと考えます。

 

4.その他

亜鉛薬がわが国において、近い将来、認可を受けて薬価収載されることと思います。色々な職種の多くの方々の熱意と努力が陰でなされていることを是非知っておいて下さい。

最後になりましたが、治験に積極的なご参加とご協力およびご理解のほど

をよろしくお願い申し上げます。

                                                          ( 文責:青木 継稔 )

 

 

 

Wilsonと尿中銅の関連について

       ―――とくに治療経過と尿中銅を中心に―――

                                                    木 継

                (東邦大学長・同医学部第2小児科教授)

 

本日は、Wilsonに最も重要な尿中への銅の排泄について理解を深めていただくために分かりやすく説明をしたいと思います。

 

1.Wilsonでは尿中銅排泄が増加するのはどうしてか。

(1)Wilsonでない人の尿中銅

Wilson病ではない健康な人(健常者)は、摂食した銅が胃や十二指腸にて吸収され、身体の中で利用され、不必要となった銅を肝臓から胆汁中に排泄(銅は胆汁酸と強く結合して腸管から再吸収されないとされる)していることは、ご承知のことと思います。成人では、約2mgが吸収され、ほぼ同量が肝臓から胆汁中を経て腸管から糞便となって排泄されています。したがって、尿の中への銅排泄量は極めて僅か(微量)であり、成人では約40μg/日以下(1kg当り換算して、1μg/kg/日以下)です。

(2)Wilsonの人の尿中銅

Wilsonを持つ人は、肝細胞内の銅運搬体(ATP-7B)が欠乏するために、肝臓に銅がどんどん貯まります。これは、肝細胞から胆汁中へ銅を排泄できないからです。この銅運搬体のATP-7Bは、肝細胞内において、セルロプラスミン前駆物質であるアポセルロプラスミンに銅を結合させて、セルロプラスミンを合成させる作用もあるのですが、Wilsonの人は、ATP-7Bが働かないためにセルロプラスミンが上手く作られません。そのために、血液中のセルロプラスミンが、健常者より著明に低くなります。肝臓やその他の臓器に貯まった銅は、やがて、肝細胞やその他の臓器を破壊してしまうようになります。例えば、肝機能検査の指標として、血清ASTGOT)、血清ALT (GPT)、の検査をします。ASTALTが、40単位以上を示しているということは、肝細胞が壊されていることを反映しています。また、肝臓(肝細胞)やその他の臓器の細胞が破壊されると、血液中に多量の銅が流出します。血液中に多量に流れ出た銅は、腎臓から多く排出されることになります。したがって、Wilson病の人は、まだ、治療を開始していないときの尿中銅を測定することによって、診断の重要な手がかりともなるのです。5歳以上のWilson病の人は、確実に健常同年齢の人よりも多量に尿中への銅排泄が増加します(食べた銅が肝臓を中心にその他の臓器に貯まりつつあり、細胞破壊のない乳幼児期は、尿中銅排泄の増加は、まだ十分ではありません)。 Wilson病の人は、100μg/日以上(24時間蓄尿)、1.5μg/kg/日以上(24時間蓄尿)、尿中銅(μg /dl)/尿中クレアチニン(mg/dl)の比が、0.2以上という尿中銅排泄増加を示します。肝不全や劇症肝炎型の重症発症例の尿中銅排泄量は、数1000μg/日あるいはそれ以上であったりします。神経症状で発症した神経型Wilsonの人は、数日間の蓄尿した平均値がやっと、100μg/日を僅かに越える程度の人もいます。同じWilsonの人でも、個人差が大きいものです。

 

2.銅キレート薬(-ペニシラミンや塩酸トリエンチン)と尿中銅

(1)急性期

Wilsonと診断されたら、@-ペニシラミン(メタルカプターゼ)、あるいは、A塩酸トリエンチン(メタライト-250)のいずれかのキレート薬が治療薬として使われます。-ペニシラミンの最大初期治療量は、25mg/kg/日を目安に1〜2週間かけて漸増します(副作用予防などのため)。塩酸トリエンチンは、数日〜1週間で4550mg/kg/日量にします。これら銅キレート薬は、食間空腹時(食前1〜2時間、1日2〜3回に分服する)に服用しないとその効果が著しく低くなりますので、何回も申し上げますが間違えないようにして下さい。これらの銅キレート薬の尿中銅排泄効果は、塩酸トリエンチンよりも-ペニシラミンの方が強く、排泄量が明らかに多いです。でも心配いりません。症状改善や臨床効果あるいは検査値に対する有効性(生物学的効果)には問題ありませんので、ご安心下さい。

 急性期は、銅キレート薬を服用することにより、尿中銅排泄は著明に増加することは当然です。色々な症状、血清AST・ALT値などは、数か月から数年の経過で改善してきます。症状が消失したり、安定(固定)したりして、肝機能検査やその他の検査が正常値に復したら、安定維持療法に移行します。

急性期は、早ければ数か月、遅いと数年以上かかることもありますが、私の経験では平均的約1年〜1年半ぐらいだと思います。この間は、上記の量を毎日服用します。

 

(2)急性期から安定維持期の目安としての尿中銅排泄量測定

@Basal Copper Excretion : 基礎的銅排泄量測定 : 原則として、3日間休薬(3日間銅キレート薬を中止)して、その後3日間連日(毎日)蓄尿して、3日間の毎日の尿中銅排泄量を測定する。健常者と同じレベルの尿中銅排泄量40μg/日以下、1μg/kg/日以下であればよいとする。

 

A簡易式Basal Copper Excretion : 私どものところでは、3日間休薬して来院してもらう(来院前3日間銅キレート薬を中止)。来院時、1回採尿を行う。この1回尿について、尿中銅(μg)/尿中クレアチニン(mg)の比を求める。この値が、0.10以下(0.05以下が最もよい)であればよい。

 以上、@あるいはAのいずれかにて、尿中銅の排泄量を測定することによって、今、安定している状態かどうかを判断しています。

 上記の数値であれば、-ペニシラミンあるいは塩酸トリエンチンの量を減量します。安定維持期の銅キレート薬投与量は、D-ペニシラミンは、1015mg/kg/日、塩酸トリエンチンは、2025mg/kg/日としています。症状や検査値あるいは、上記のBasal Copper Excretion によって増減します。

 

(3)怠薬を発見することもできる

 銅キレート薬を服用していますと、安定維持期であっても尿中銅の排泄が、増加しています。私どものところでは、来院されたときに、採尿(1回尿)して、尿中銅/尿中クレアチニンを抜打ちに測定することがあります。怠薬しているときには、尿中銅排泄量が、服用しているときよりも著しく低い値となりますので、「あなたは銅キレート薬をさぼっているのではないか?」と問いかけをします。銅キレート薬が、『あなたの命綱』であることを再認識して貰う手段にも、尿中銅測定は有用です。

                            平成16年2月

 

 

『ウイルソン病友の会』を育てましょう!

私も応援しています 

                                                               青木 継稔

                (東邦大学学長、同医学部第2小児科教授)

 

ウイルソン病友の会の皆様、いかがお過しでいらっしゃいますか。きっとお元気に頑張っていらっしゃることと拝察しています。ウイルソン病友の会の会員が少しずつですが、年々増加していて、本会の発展に大きく寄与し、会員相互の連携と信頼、さらには色々な不安や問題の解消・解決にも役立っているものと確信しております。

今年の5月11日(日)に開催されました『第9回全国大会』(東邦大学医学部付属大橋病院教育棟1階講堂)には、多くの方々にお集まりいただき有意義な話し合いができたのではないかと思います。今秋、恐らく11月9日(日)に『関西支部会』(大阪医科大学臨床講義室・玉井浩小児科学教授のお世話)が第6回開催を予定しています。また、今春、5月22日(木)『第1回九州地区友の会』(第45回日本小児神経学会・アクロス福岡において)が開催されました。

とくに、念願でありました『九州支部』には約30名の会員と7名の医師が参加され、極めて有意義な会でした。友の会会長・事務局長の小峰恵子様の強い要望と九州地区の友の会会員のお気持ちが一つになってのご希望でしたので、第45回日本小児神経学会の会長満留昭久教授(福岡大学医学部小児科)に私の方からお願いして会場を確保していただきました。無料でお借りできて、満留昭久教授やご教室の皆様に改めて感謝申し上げたいと存じます。

「ウイルソン病は遺伝性銅代謝異常症ですが、数少ない治療できる先天代謝異常の一つです。」というふうに医学書に記載されています。医学的にみて、治療学の分野において解決ずみという分類がなされています。しかし、現実はもっともっと深刻で厳しいものがあることは、患者(児)様で本人やそのご家族の皆様は十分にご承知のことと存じます。今、新聞紙上やマスコミの流行外来語として“マニフェスト:manifest”という言葉がよく使われています。“あらわす”、“あらわれる”、“表出”などの意味で用いられているようです。医学用語の中にもよく使われていて、私ども医師の間は通常用語で昔から知られています。医学では、“表われた症状とか見出された所見:発現症状や所見”という意味で使われています。

ウイルソン病患者(児)様は、個人個人多様なマニフェストにて発見され、診断されてきたと思います。思春期前の小児期に発見された方のほとんどが原因不明の肝炎症状あるいは検査による肝機能障害(GOT:AST、あるいはGPT:ALT値の上昇)などであったと思います。この中には、大変に急速に進行する劇症肝炎型で発見される方も何人かいらっしゃいます(劇症肝炎型は肝移植が考慮されることが多いと思います)。もちろん、思春期過ぎから成人に至る間に、肝症状の出現や肝機能障害ということで発見される例も多くあります。思春期ころから、神経症状をマニフェストする例が多くなります。神経症状にも、大別して2つのマニフェストがあります。一つは、ふるえ・振戦(ひどくなると羽ばたき振戦など)を主体とするものと、もう一つは、身体が硬くなる・ジストニア(仮性硬化症)を主体とする型があり、もちろん、両者が合併することもあります。とくに、神経症状をマニフェストする型の人は、精神的症状を合併することがあります(神経症状がなくて、精神症状のみで発現する例もあります)。

神経症状をマニフェストしたウイルソン病患者()様の治療効果は、決して良いとは言えません。ロレツが回らない、字を書くのが下手になった等の軽い症状のうちに、本症と診断され、早く治療を開始すれば、症状の消失も可能ですが、回復まで長期間かかったり、治療を開始したが増悪したり、多少は良くなるが固定した症状が残ってしまったりすることが多いのです。銅蓄積により破壊された神経細胞が元に戻ることができないのです。残っている神経細胞がどれだけその機能を代償できるかということになります。

私がウイルソン病患者(児)様と最初に出会い、ウイルソン病に興味を持ち始めて約40年近くになります。この間に、劇症肝炎、進行性中枢神経症状、肝硬変合併症による大量出血などで亡くなられた方も何人かおられました。年々と、私どもの教室(医局)では早期発見・早期診断・早期治療が可能となり、年々、重い神経症状の初発例はほとんどいらっしゃらなくなり、「ウイルソン病は小児の肝疾患である」という位置づけになってきておりました。しかし、色々な病院、全国の諸先生方から紹介されて来られ、すでに診断され、治療されているのですが、今の時期に、まだ、重い神経症状を抱えて、固定されてしまったり、回復が遅い例であったり、大変に驚かされてしまいます。私どものところにご紹介を頂いたものの、色々と治療法を新しく工夫しますが、すでに時期を失してしまい、現状を悪くしない治療法に方向転換せざるを得ないこともしばしば経験します。

さらに、「ウイルソン病友の会」に参加してみて、まだまだ、重い神経症状に苦しまれる患者(児)様が極めて多いという現実に直面して驚いております。先に、「ウイルソン病は治療可能な疾患であり、治療についてはほとんど解決ずみである」と医学書に記載されていること、私どもは本症の早期発見・早期診断に心がけており、全国への発信基地としての役割を担っていると自負しており、神経症状がマニフェストする以前、あるいはまだ回復可能な軽い症状のマニフェストの時期までに診断可能と発表してきました。すなわち、ウイルソン病という症状をマニフェストして病院を訪れる患者(児)様へのウイルソン病を疑い、検査をして本症の早期発見がまだまだ、全国に浸透していないのであるという認識を新たにしているところです。

医師として私どもの役割は、ウイルソン病の早期発見・早期診断・早期治療であります。何千、何万という病気の種類があり、医師の方は専門制に移行せざるを得ません。しかし、ウイルソン病は、治療できること、早く治療を開始すれば生涯にわたり、全くふつうの健康人として生活できるということを全医師に知って貰う必要がありましょう。現実は、なかなか難しいことと思いますが、ウイルソン病を診療し研究している私どもが地道に啓蒙をしてゆく以外にありません。

子どものころに、本症のマス・スクリーニングを実施し、まだ症状をマニフェストしていない時期に早期診断・早期治療ができるように厚生労働省の厚生科学研究が行われています。本症のマス・スクリーニングが実施されるまでには、まだまだ時間がかかりそうです。こちらの方も根気よく研究を続けて行かなければならないと思っております。

私ども医師は、患者(児)様から多くの勉強をさせていただいています。『ウイルソン病友の会』に参加させていただき、新しい発見、新たな決意と勇気をいただきます。大変でしょうが、自分自身のため、ウイルソン病という共通の疾患とそれに伴う諸問題を共有し問題解決を図るため、相互の悩みや相談をし合うため、さらに色々なことがあると思いますが、どうぞウイルソン病友の会を少しずつ発展させ育て上げていただきたく念じております。私どもも、全力を傾倒して本会の発展に微力ですが支援・協力をさせていただきたく存じます。皆様の益々のご健勝とご活躍を祈念しますとともに、限りある命のともしびを精一杯に輝かせて下さい。

                平成15(2003)年7月31日